有機フッ素化合物 国レベルの対応急ぎたい(2024年3月22日『熊本日日新聞』-「社説」)

 発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)を巡り、環境省が大学や研究機関に委託して健康影響についての研究を始めると発表した。国は飲み水などの目安となるPFASの濃度水準を再検討しており、除去のための技術的指針も今後示すという。

 熊本を含む全国各地の川や飲み水の水源などから高濃度のPFASが検出され、住民の不安が高まっているのに、行政の対応は遅れている。自治体単独で対処できる問題ではなく、政府は規制の強化や影響拡大防止、健康相談などの対応を急ぐべきだ。

 PFASは水や油をはじく特性がある。フライパンのコーティングや衣類の撥水[はっすい]加工、食品包装などに幅広く使われてきた。自然界で分解されにくく、環境中に出ると長期間残留して人の体内などに蓄積される。発がんリスクやコレステロール値の上昇、免疫機能への悪影響などが懸念されている。

 日本では2020年に、水道水や河川など環境中の水についてPFASの代表的な2物質のPFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)を「暫定目標値」とした。

 米環境保護庁(EPA)は昨年、2物質の規制値を大幅に厳格化する案として、今の技術で検出できる限界の1リットル当たり4ナノグラムとした。ドイツも28年に基準を引き上げ、4種類のPFAS合計で1リットル当たり20ナノグラムとする。

 政府も有識者会議で暫定目標値の50ナノグラムを再検討するが、先に前提となる人体の摂取許容量を現状維持とすることを決めており、水質の目標値も据え置かれるのではという見方が広がっている。

 EPAが規制値を厳格化するのは、発がんリスクの有無は一定の値で線引きできないとの方針に立っているためだ。因果関係が十分に証明されていなくてもこうした対策をとる考えは「予防原則」と呼ばれる。日本もそうした姿勢を参考にすべきではないか。

 国内では22年以降、8都府県の計12県・市町村議会がPFAS対策の推進や汚染防止を求める意見書を衆参両院に提出。半導体の生産過程でも使われるため、関連企業の集積が加速している熊本県内でも懸念の声が上がっている。

 広島県の井戸からは暫定目標値の300倍のPFASが検出された。こうした高濃度汚染の原因や汚染源を突き止め、拡大防止を図ることも必要だ。環境省は具体的な除去技術をまとめた指針を夏ごろ策定するとしているが、早急に示すべきだ。

 血液検査の結果などから健康不安を持つ住民らに対し、相談に応じる体制も整備してもらいたい。汚染場所の検査や住民の健康調査、毒性のメカニズム研究、被害拡大防止のどれをとっても国の対応は後手に回っている。

 被害が大きく拡大してからでは手遅れになり、初動の行政の不作為が取り返しのつかない損害を招く。そのことも水俣病事件など過去の環境汚染から日本が学んだ教訓だったはずだ。