もし、これが冤罪(えんざい)だとしたら…(2024年4月29日『しんぶん赤旗』-「潮流」)

 もし、これが冤罪(えんざい)だとしたら…。ことの重大性に背筋が冷たくなります。公開中のドキュメンタリー映画「正義の行方」(木寺一孝監督)。1992年に福岡県飯塚市で起きた「飯塚事件」に迫りました
▼殺害されたのは小学1年生の少女2人。登校中に行方不明になりました。直接証拠がないまま、DNA型鑑定が決め手となって、“犯人”逮捕。でもそれは、導入されたばかりで足利事件で冤罪が確定したのと同じDNA型鑑定でした
▼監督は黒澤明の「羅生門」の手法を取り、当事者それぞれの主張を並べます。捜査にあたった警察、「重要参考人浮かぶ」の一報を打った西日本新聞、死刑執行後に再審請求をした弁護団…。何が本当なのか。観客は藪(やぶ)の中から自分の目で見つけることを余儀なくされます
▼驚くのは最高裁で死刑が確定された、わずか2年後に死刑が執行されたことです。元福岡県警・捜査1課関係者の一人が語ります。「難しか死刑を下してくれた…。証拠が少なかったけん、早(はよ)うしとかな因縁つけられやせんかちゅうような判決やないと。こう、自分には私は言いきかせた」
▼第1次再審請求は棄却。希望は西日本新聞の自己検証です。社内に逆風がある中、自らを“被告席”に立たせ、ゼロベースで取材をやり直しました。検証キャンペーンは2年で83回。1年かけて目撃証人にたどり着いた執念に拍手を送りたい
▼“過ちては改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ”。映画は改むることができない日本の警察と司法の姿もあぶりだします。
 
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解説
2022年4月にNHK BSで放送され、令和4年度文化庁芸術祭・テレビドキュメンタリー部門大賞を受賞したBS1スペシャル「正義の行方 飯塚事件30年後の迷宮」を劇場版として公開。
1992年に福岡県飯塚市で2人の女児が行方不明となり、同県甘木市(現・朝倉市)の山中で他殺体となって発見された飯塚事件。94年に逮捕され、DNA型鑑定などにより犯人とされた久間三千年(くま・みちとし)は死刑判決を受け、08年に刑が執行された。しかし、執行の翌年に冤罪を訴える再審請求がなされ、事件の余波はその後も続いている。本作では飯塚事件に関わった弁護士、警察官、新聞記者がそれぞれの立場から語られる「真実」と「正義」をもとに、この事件の全体像を描きながら、日本という国の司法の姿を浮き彫りにしていく。
監督はNHKディレクターとして死刑や犯罪を題材にした数多くのドキュメンタリーを手がけ、樹木希林を追った「“樹木希林”を生きる」を監督した木寺一孝。
2024年製作/158分/G/日本7日