PFASの規制 健康不安に応えているか(2024年2月25日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 証拠が十分でなく、人体への影響がよく分からないからこのままで―では困る。

 PFAS(ピーファス)と総称され、発がん性などが疑われる主な有機フッ素化合物の1日当たりの摂取許容量について、内閣府食品安全委員会の部会が結論をまとめた。体重1キロ当たり20ナノグラム(ナノは10億分の1)という暫定値を現状維持する。

 発がん性、出生時の低体重などを指摘する国内外の疫学研究を検討。関連は否定できないとしつつ、「証拠が不十分」「研究が限られている」「動物実験の結果を人に当てはめられるか判断できない」などとした。

 環境省厚生労働省の専門家会議も水質管理上の規制の見直しを始めている。こちらも食品安全委部会の結論と同様に、水1リットル当たり50ナノグラムという暫定値を据え置くことになりそうだという。

 PFASは人工的に作られた物質で自然界ではほとんど分解されない。水や油をはじき、泡消火剤、半導体、フライパンや食品包装の被膜などで身近な存在だ。

 同時に、河川や井戸、水道水などで暫定値を超える検出が相次いでいる。長野市でも水道水源の一部で地下水の暫定値超えが分かり、取水を停止している。

 全国ではフッ素樹脂などを扱う工場や泡消火剤を使う在日米軍基地の周辺の高濃度汚染も明らかになってきた。自主検査で住民の血液中から高濃度で検出される例もあり、原因調査や対策を求める住民の声が高まっている。

 ただ、暫定値はあくまで、水道事業者らが水質管理上留意すべき目安だ。検査や必要に応じた改善措置といった対応を法的に義務付ける「基準」ではない。

 このため、PFASが水道水などで検出された自治体には、広範な調査や汚染源の特定までは踏み込みにくいとの声がある。

 国際的に規制は強化されている。米国は昨年、水1リットル当たり4ナノグラムの基準を示した。日本の10倍以上厳しい。世界保健機関の研究機関も代表的な物質2種類の発がん性評価を引き上げた。

 環境省などは今後3年かけて有害性などを研究し、全国の自治体と河川のモニタリング調査を行う。専門家会議で暫定値から基準への格上げも検討するという。だが、ことは毎日の飲み水や住民の健康にかかわる問題である。

 被害の可能性を重くみて、自治体による実態把握を後押ししたい。住民の不安に応える国の姿勢が問われている。