比謝川取水再開 国の不作為が窮状生んだ(2024年2月28日『琉球新報』-「社説」)

 人体への影響が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)濃度が高い比謝川から水道水の取水が再開される。ここ10年間のダム貯水率が最低レベルとなるなど、断水を回避するための判断ではある。ただ、水の安全性を担保する上で、健康影響への不安を残す高濃度水の取水は、本来はあってはならないことだ。

 PFASの検出以降も基地内での十分な立ち入り調査ができないなど、問題が放置されてきた。認識しながら、米軍の特権に切り込むことをしない日本政府の不作為が窮状を生んだと言わざるを得ない。
 発がん性が指摘されているPFASの水源混入は、米軍基地由来の可能性の高さが言われてきた。米軍が使用する泡消火剤などに含有されるからである。このため、PFASが検出されていた中部水源からの取水を2022年から止めていた。
 今回の水不足で比較的濃度の低い嘉手納井戸群、天願川での取水を11日から再開したが、比謝川からの取水は見送っていた。1月の検査で、国の暫定目標値(1リットル当たりPFOSとPFOA合計で50ナノグラム以下)を上回る152ナノグラムが検出され、他の水源よりも濃度が高い。降水の状況を勘案しながら取水をできる限り避けなければならなかった。
 県企業局は、他の水源からの水と希釈され、さらに浄水場での処理によって浄水では目標値から大きく下回ると説明する。検査結果など今後も積極的な情報開示が必須だ。
 PFASについては、基地内への立ち入り調査はどうしても必要である。
 日本側の立ち入り調査はこれまで認められたこともあるが、泡消火剤の流出が「現に発生した場合」などと米軍との取り決めがあり、十分に調査できているとは言えない。取り決めは日米地位協定の環境補足協定に基づくもので、県は協定の構造的な問題があると指摘し、立ち入りの実現を求めてきた。
 汚染源を確定できないまま、県民はPFAS濃度の高い水源に頼らざるを得ない。この問題は都内の横田基地周辺の住民の血中から高濃度で検出されるなど、広がりを見せている。国は指針値の策定を進めているが、現に発生している問題への対応は遅い。
 依然として日米地位協定の壁が立ちはだかる。国民の健康に直結する水の問題に直面しても米軍の特権を認め続けるのか。岸田文雄首相は26日の衆院予算委員会で「住民の不安を真剣に受け止めている」とし、米国への働きかけを続けると述べた。ならば県が求める立ち入り調査を直ちに実現させ、国も主体的に調べるべきだ。
 県民には節水への協力を求めたい。27日午前0時時点で、沖縄本島内の11ダムの貯水率は44・4%で、平年の75・9%を31・5ポイント下回る。過去10年で最も低かった44・3%にほぼ並んだ。一人一人の心がけが欠かせない。