ナノプラスチック 広がる汚染は人体にも(2024年3月22日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 人体への悪影響が懸念される結果だ。

 直径1マイクロメートル(千分の1ミリ)以下というプラスチックの超微粒子(ナノプラスチック)が国内の被験者の血中で確認された。東京農工大の研究グループが明らかにした。

 検査用に保存していた血液から、発泡スチロールの原料などに使われるポリスチレンを検出した。血液1グラム当たり40~550ナノグラム(ナノは10億分の1)という。

 超微粒子は、投棄されたプラ製品が物理的な衝撃や、太陽の紫外線、微生物による分解によって細片化されてできる。直径5ミリ以下のマイクロプラスチックからさらに細かくなった状態とされ、近年の分析技術の向上で検出されるようになった。

 河川や海、大気、土壌などに広く存在し、極小のため体内に取り込まれやすい。人の血液からはオランダで検出例がある。国内では初めてだが、もはや誰の体内であっても入り込んでいる可能性があると考えるべきだろう。

 深刻なのは、被験者の血液や腎臓、肝臓などから、プラの劣化防止で添加する紫外線吸収剤や、ポリ塩化ビフェニール(PCB)が見つかったことだ。

 残留性有機汚染物質(POPs)と称される化学物質群の一つである。環境ホルモンとして、生殖機能や子どもの脳の発達への悪影響が指摘されてもいる。

 超微粒子は、自然界に漂うこうした有害物質を吸着する。そして運び役となり、人体内に蓄積させている恐れがある。

 POPsの国際規制を目的としたストックホルム条約はこの20年間、紫外線吸収剤やPCB、水道水への混入が問題化している有機フッ素化合物(PFAS)などさまざまな種類の製造、使用に網を掛けてきた。だが、環境中では容易に分解されず、残存する。

 他方、化粧品や洗剤などにも使われるプラ素材は日々、大量に消費され、ごみとなって排出されている。2060年には19年の3倍近い約10億トンになり、環境中に堆積する量も3・5倍の約5億トンに膨らむとの予測がある。

 プラごみを排出だけでなく、生産、流通でも国際規制する条約づくりは遅れている。日本は昨年のG7で、議長国として「プラごみの新たな汚染を40年にゼロにする」との合意をまとめた。率先してPOPs、超微粒子の規制強化に乗り出すべきだ。

 便利さと引き換えに何が損なわれつつあるのか。生産企業も消費者も向き合わねばならない。