汚染水の漏えい/処理設備の再構築につなげ(2024年3月17日『福島民友新聞』-「社説」)

 東京電力は2月、福島第1原発で発生する汚染水からセシウムなどを取り除く設備がある建屋の排気口から放射性物質を含む水を漏らした。建屋の外に出た水の量は約1・5トン、含まれていた放射性物質濃度は約66億ベクレルで、廃炉作業への信頼を損なう事態となった。

 原発事故で溶け落ちた核燃料は水で冷やさなければならず、第1原発の構内では絶えず汚染水が発生している。汚染水はさまざまな設備を通してトリチウム以外の放射性物質を取り除いた「処理水」とした後、タンクに保管する。今回の漏えいは処理の初期の段階で発生し、汚染水そのものが建屋外に出るという重大な過ちだった。

 東電によると、設備の稼働を休ませて内部を洗浄する際、本来閉めておく弁を開けていたため汚染水が漏えいした。作業手順があったにもかかわらず単純なミスが発生したのは、協力企業の不注意に加え、東電の現場管理能力の欠如に原因がある。安全な廃炉を実現する責務を改めて自覚し、再発防止に取り組まなければならない。

 汚染水を「処理水」とするまでに使用するセシウムなどを吸着する装置や多核種除去設備(ALPS)などの一連の設備は、原発事故に対応する緊急時に急ごしらえで場所を確保して段階的に設置されてきた。人手が足りないなか、運用も変則的な体制や作業手順で行われており、今回のミスの一因になったと指摘されている。

 東電は今回の事故を受け、水処理設備の設計と保全を担うグループを整理・統合し、一元管理する「水処理センター」を設置する。東電には、センターを外部の批判をかわす隠れみのにせず、水処理の安全上の弱点を徹底的に検証する組織として動かし、より安定的に運用できるシステムの再構築につなげていくことが重要だ。

 今回の漏えいを巡り、東電はカメラなどのデジタル技術を活用した安全確保の仕組みを導入し、人為的なミスを減らしていく考えを示している。ただ、注目すべきなのは、弁が閉まっているかどうかの確認を担当した作業員が、東電の聞き取りに対し「高線量下の作業なので早く作業を終えたい」と述べていたことだ。

 廃炉作業の従事者は年間50ミリシーベルト以下、5年間で100ミリシーベルト以下に管理されてはいるが、どうしても放射線被ばくを伴う。東電の経営陣は、デジタル技術は人のミスを防ぐだけではなく、作業を可能な限り遠隔化して不要な立ち会いをなくし、現場での被ばく線量を軽減するために導入する必要があることも肝に銘じてもらいたい。