花粉症シーズン 国民病克服へ対策強めよ(2024年3月9日『産経新聞』-「主張」)

花粉を付けた一般的なスギ(森林総合研究所林木育種センター提供)

 

 本格的な花粉症のシーズンとなった。目がかゆく、くしゃみや鼻水が止まらないなどの症状に苦しむ人は多いだろう。

 日本人の約4割が罹患(りかん)する花粉症は「国民病」とも呼ばれる。症状が出ると仕事や勉強に集中できなくなり、経済や社会に及ぼす悪影響は決して小さくない。

 政府は民間と連携し、花粉の発生抑制や症状緩和に向けた対策を強化すべきだ。

 耳鼻咽喉科に関する学会の調査によると、令和元年時点の日本人の花粉症有病率は42・5%で、平成10年時点の19・6%から約20年で倍増した。このうち約9割がスギ花粉によるアレルギー症状である。

 花粉症対策を重視する岸田文雄政権は、昨年10月に「初期集中対応パッケージ」を決めた。その中で発生源のスギ人工林を10年後に2割減少させるという目標を掲げた。伐採や植え替えを急ぐほか、花粉の少ない品種の生産拡大を図る。

 こうした政策を着実に進めてもらいたい。同時にどれだけ効果があるのかを検証し、状況に応じて取り組みを加速することも検討すべきだ。

 昭和20年代以前は、日本に花粉症はほとんどなかった。しかし先の大戦で森林が荒廃したため、建築資材にもなるスギが国策として大量に植えられた。それが成長し、花粉を放出するようになった50年代から、発症者が急増した。

 林業の衰退により、スギ人工林の管理が行き届かないという問題もある。

 このため政府の対応パッケージには、林業労働力の確保も盛り込まれた。だが、少子化が進む中で実現のハードルは高い。他産業とも連携した、官民一体の取り組みが求められよう。


 予防や症状緩和には個々人の心掛けも大切である。外出時にマスクやメガネを着用し、帰宅時には衣服についた花粉を払い落とす習慣を身につけたい。発症していない人も、屋内に花粉を持ち込まないよう気を配ってほしい。

 飛散情報をチェックすることも重要だ。多い日には外出を控え、テレワークにしたらどうか。雇用側も在宅勤務を積極的に認めるべきだろう。

 官民の連携と、一人一人の心掛けにより、この国民病を克服したい。