診療報酬の改定/地域医療を支える制度に(2024年3月6日『神戸新聞』-「社説」)

 医療サービスの公定価格に当たる「診療報酬」の2024年度改定内容が決まった。昨年末、技術料や人件費など「本体」部分の0・88%増額が決定し、今回は改定される診療料金の細目が明らかになった。

 増額分は看護師や薬剤師、若手医師らの賃上げに充て、2年間で計4・5%のベースアップを見込む。着実な待遇改善につなげ、医療体制を強化しなければならない。

 初診料は2880円から30円増やし、一部の診療所で最大700円を上乗せする。自己負担が3割の患者が窓口で払う額は9~219円増える。実施は6月からだ。

 全患者の初診料引き上げは消費税増税時を除き20年ぶりとなる。今年は介護、障害福祉の報酬も改定され、それぞれ利用者の負担増が見込まれる。物価高も相まって生活が苦しい高齢者らの受診控えを招かないよう注視する必要がある。

 新型コロナウイルス禍では、地域の医療体制のもろさが浮き彫りになった。地域や診療科ごとの医師の偏在解消も大きな課題だ。必要な人員を確保できる制度設計が急がれる。

 4月からは「医師の働き方改革」による残業規制も始まる。長時間勤務が常態化した病院などでは、対応できる人員が減ることになる。国や自治体、医師会が連携して影響を把握し、手を打つべきだ。

 今回の改定では、利益率が好調な診療所の報酬を減らし、経営が苦しい中核病院などに手厚く配分できるかどうかが一つの焦点だった。

 政府は日本医師会などの反発を受け、施設ごとの報酬設定には踏み込まなかったが、代わりに生活習慣病患者の「特定疾患療養管理料」の見直しを盛り込んだ。

 従来は診療所が高血圧や糖尿病などの患者に薬を処方しただけでもらえた管理料がなくなる。「狙い撃ち」の減額がかかりつけ医の経営を圧迫しないか、見極めが重要になる。

 近年、救急医療が各地で逼迫(ひっぱく)し、搬送困難例が増えていることを受け、政府は「地域包括医療病棟」の仕組みを新設する。

 高齢者の搬送は中等症や軽症が多数を占めるが、重症者向け病院に運ばれる例も多い。これらの患者に医療とリハビリを施して早期退院を支援し、病床逼迫を防ぐ狙いがある。

 問題はこの病棟から自宅や施設への橋渡しが円滑に進むかどうかだ。行き場を失った高齢者が「社会的入院」に陥らないよう、医療と福祉との連携強化が欠かせない。

 コロナ禍では、高齢者施設の入居者が医療の支援を十分受けられない事態が生じた。次の感染症流行に備え、医療の関与を強める仕組みも構築してもらいたい。