農業基本法の改正 食料安保に資する基盤を(2024年3月9日『産経新聞』-「主張」)

 政府が農政の指針となる食料・農業・農村基本法改正案と関連法案を閣議決定した。平成11年の基本法制定以来、初の改正だ。食料安全保障の確保を基本理念としたことが最大の特徴である。

 この四半世紀で農業を取り巻く環境は変化した。多くを輸入に頼る食料供給を巡っては、気候変動に伴う災害激甚化や国際的な穀物争奪戦のほか、ロシアのウクライナ侵略による穀物高騰など地政学上のリスクも高まっている。

 基本法食料安保の確保を目指す方向性は妥当であり、国民に安定的に食料を供給できる基盤を構築すべきである。改正案は環境負荷低減などの新たな課題も盛り込んでおり、今国会での確実な成立を図りたい。

 食料安保の定義について「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態」とした。安定供給のためには輸入先の多様化や適切な備蓄も必要だが、何よりも大切なのは国内生産基盤の強化である。

 高齢化に伴う担い手不足は深刻で、基幹的農業従事者はこの20年余りで半減した。年齢構成のピークは70歳以上の層だ。こうした積年の課題を克服できなければ、国内供給力は増強するどころか減退しかねない。

 経営規模の大きい農業法人への農地集約やスマート農業による生産効率向上などは引き続き重要だ。従来施策の効果を検証し、農業経営の強化や新規就農につながる施策を講じたい。

 改正案には海外への輸出を促進して国内の供給能力を維持する考えも盛り込まれた。生産を抑制することで価格を維持してきたコメの輸出先を開拓するのは一手だ。農産物の輸出拡大は農業経営の収益性を高めるだけではなく、不測時に国内供給に回す余地にもなり得よう。

 このほか、食料自給率目標に加えて食料安保に関わる新たな指標も設ける。肥料の安定供給目標などが想定されよう。生産資材が十分に確保できなければ食料生産も滞る。実効性のある目標を設定してもらいたい。

 関連する食料供給困難事態対策法案では不測時の対応を規定した。食料不足の深刻度に応じて出荷調整や生産拡大、生産転換などを求める法的根拠を明示したものだ。生産者から消費者まで国民全体に関わる法制として周知を図らねばならない。