生成AI(人工知能)の登場で、誰もがいとも簡単に偽の動画などを作れるようになった。そうした技術を悪用し、民主主義の根幹である選挙が脅かされる事態が懸念される。
政府は実効性のある偽情報対策を講じねばならない。
マイクロソフトやグーグルなど世界の主要IT20社が、AIで作られた偽情報で各国の選挙が妨害される事態を防ぐため、協力して対策を進めることで合意した。
ネット上の情報が信頼できるものかどうか利用者が確認できるよう、動画や画像の発信元を明示する「電子透かし」の開発や、SNS上の偽情報を検出し、消去する技術の確立を目指す。
虚偽情報で選挙を妨害する事例は過去にも起きている。8年前の米大統領選では、民主党のヒラリー・クリントン候補が「テロ組織に資金提供していた」といったデマが、SNS上に広がった。ロシア企業が行ったとされている。
AIが発達した現在、巧妙な偽動画などで世論が操られる恐れが強まっている。IT各社の取り組みは、時代の要請と言えよう。
今年1月、ニューハンプシャー州での米大統領選の民主党予備選を巡り、バイデン大統領に似た声で投票を控えるよう促す電話が相次いだ。偽の声はAIで合成されたとみられ、バイデン氏の得票を減らす狙いがあったようだ。
民主主義は、選挙で選ばれた代表に政治を託す制度だ。その基盤である選挙で、有権者が偽情報に惑わされて投票先の判断を誤るようなことがあってはならない。
ロシアや中国は、他国・地域の選挙の信頼性に疑義を与えようと、偽情報を流布しているとされる。今後、AIを悪用した選挙妨害が増える可能性がある。
欧州連合(EU)は偽情報の拡散を「公益への攻撃」とみなし、IT大手に拡散防止の措置を取るよう法律で義務付けている。
一方、日本政府は偽情報対策について、IT事業者の自主的な取り組みに任せている。厳しく規制した場合、動画などを作り出すAIの開発を阻害しかねないと考えているようだ。
偽情報がAIで巧妙に作られ、選挙に影響を与える恐れがあるというのに、対策を事業者任せにしている日本政府の態度は危機感が乏し過ぎる。欧州の法制度を参考に、法規制を検討すべきだ。