死者3万人超 ガザの惨状見過ごせない(2024年3月5日『新潟日報』-「社説」)

 連日、多くの尊い命が無残に失われている惨状を何としても止めなくてはならない。食料は極度に不足し、約60万人が飢餓に陥る危機が迫っている。

 これ以上の犠牲者を出さないため、国連や国際社会はイスラエルに過剰な攻撃をやめさせ、一刻も早い休戦へ導かねばならない。

 パレスチナ自治区ガザの保健当局は、昨年10月に始まったイスラエル軍イスラム組織ハマスの戦闘によるガザ地区の死者が、3万人を超えたと発表した。

 5カ月足らずで3万人超が死亡するのは、恐るべき事態だ。ガザ人口約220万人の七十数人に1人が命を落としたことになる。

 国際非政府組織(NGO)オックスファムによると、21世紀の紛争の中で、最も速いペースで1日当たりの死者が増えている。

 人口10万人当たりの推計では、ガザでは1日9・1人(2月中旬時点)が亡くなり、ロシアの侵攻を受けたウクライナの最初1年間の死者0・55人を上回っていると指摘する識者もいる。

 保健当局は死者の7割が女性や子どもだとしている。イスラエル軍が一般市民まで無差別に攻撃していることは明らかだ。

 2月末には支援物資を積んだトラックに群衆が殺到し、イスラエル軍が発砲した。保健当局は住民ら100人以上が死亡し「虐殺だ」と非難した。

 イスラエル軍は、発砲は警告射撃で、多数が死亡したのは混乱した群衆が折り重なって倒れたためだと主張している。

 だが、「群衆に向かって撃った」という証言がある。アフリカ連合(AU)は「大量殺りく」とする非難声明を出した。国際社会で批判が高まるのは当然だろう。

 容認できないのは、イスラエル軍がさらに、最南部ラファへの侵攻を計画していることだ。

 ラファにはガザ各地からの避難民ら約150万人が密集している。侵攻されれば、民間人の被害が拡大することは必至だ。

 人道危機はますます深まっている。物資搬入の厳しい制限が長期化しているため、国連によると、人口の約4分の1の「57万6千人が飢餓の一歩手前」だという。

 子どもが脱水症状や栄養失調で亡くなる事態が相次いでいる。保健当局は子どもや妊婦に飢餓が拡大する恐れがあるとしている。

 世界保健機関(WHO)によると、感染症や破壊された建物の粉じんによる健康被害も言われている。避難生活の中で亡くなる関連死が増える可能性もある。

 米軍は2日、戦闘開始以来初めてガザへ支援物資を投下した。

 国連安全保障理事会で「即時人道停戦」を求める決議案に拒否権を行使するなど米国はイスラエル擁護の姿勢を崩さない。危機的状況を認識しているなら、休戦への働きかけを強めるべきだ。