祖国とは何か―(2024年2月18日『しんぶん赤旗』-「潮流」)

 祖国とは何か―。主人公である父親が問いかけます。この部屋に二十年間存在し続けたこの二つの椅子のことか? それともテーブルのことか? 壁に掛けられたエルサレムの写真のことかと

▼向かい合うのは、生まれたばかりの頃にイスラエル軍の攻撃によって離れ離れになってしまったわが子。追われた地で20年ぶりに再会した息子は、大量虐殺から逃れてきたユダヤ人に育てられ、守備軍の一員となって主人公に言い放ちます。「あなたは向こう側の人だ」

イスラエル建国後、難民となり36歳で爆殺されたパレスチナ人作家カナファーニーが残した小説『ハイファに戻って』の一節です。国や故郷を奪われるとはどういうことか。幾重もの悲しみが伝わってきます

▼半世紀以上も前に書かれたカナファーニーの作品がいままた注目を集め重版されています。「これは今もイスラエルで起こっていることだ」。数年前、文庫版の解説につづった作家の西加奈子さんの言葉は進行形となって目の前に

▼100万人をこえる避難民でひしめくガザ南部ラファへの軍事攻撃が迫っています。それがどれほどの悲惨を。国際法や人道を顧みない、これまでのジェノサイドが物語ります

▼先の主人公は自身の問いにこう答えを出します。「祖国というのはね、このようなすべてのことが起こってはいけないところのことなのだよ」。そして、イスラエルの人たちをはじめ私たちに叫びかけるように。この悲劇が、自分の身に起こったらと想像してくれ、と。