ガザ避難民の逃げ場を守れ(2024年3月4日『日本経済新聞』-「社説」)

 

ガザ南部ラファで1日、イスラエル軍空爆でがれきと化した建物を見つめるパレスチナ人男性=ロイター

 イスラエル軍パレスチナ自治区ガザの最南部に位置するラファでの本格的な地上侵攻作戦を準備している。ラファは人道支援物資の重要な搬入拠点であり、戦火を逃れた約150万人の避難民であふれかえっている。危機的な人道状況にさらに壊滅的な打撃をあたえるような展開を憂慮する。

 ガザのイスラム組織ハマスによる2023年10月の襲撃は、一般市民を狙った許されざる行為だ。多くの国がイスラエル自衛権をみとめ、人質の奪還や抑止力回復のための作戦に理解を示した。

 だがイスラエル軍はガザ攻撃で白紙の委任状を手にしたわけではない。住民の逃げ場を完全に奪うような作戦は受け入れられない。

 ガザの死者数は2月末までに3万人を超えた。国連人道問題調整事務所(OCHA)は人口の4分の1が飢餓の一歩手前にあると警告する。

 2月末には北部ガザ市で支援物資を積んだトラックに住民が殺到し110人以上が死亡した。パレスチナ側はイスラエル軍の意図的な発砲があったと主張している。

 事実上、ガザの支援全般をになってきた国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)の職員がハマスに協力していた疑いが1月に浮上し、人道危機に拍車をかけた。善意の支援がテロ資金に転じることへの懸念から日米欧などが資金拠出を一時的に見合わせたのはやむを得ない面もあった。

 だからといって進行中の人道危機を放置していいはずがない。米軍はガザ上空から食料投下を始め、支援物資の追加搬入も検討している。欧州連合EU)は予定していた支援枠からUNRWAへの支払いを進めると表明した。

 日本はUNRWAへの拠出再開の検討とともに、他の国連機関やパレスチナ赤新月社と協力するなど支援を途切れさせない工夫が求められる。

 イスラエルのネタニヤフ政権は戦闘を一時休止し、人質の交換や支援物資の搬入のための話し合いに向き合うべきだ。