米軍と自衛隊が2月上旬、「台湾有事」を想定した最高レベルの指揮所演習で、中国を初めて仮想敵国と明示したことが共同通信の報道で明らかになった。
米中の軍当局は交流を再開させたばかりだ。中国を仮想敵とする演習は対話の機運に水を差しかねないと懸念する。
指揮所演習では実際の地図なども使用し、アジア地域を管轄する米インド太平洋軍と自衛隊が作戦内容を調整。台湾有事にどう関与するかを確認したとみられる。
これに対し、在日中国大使館は中国を仮想敵とした演習に「中国の統一を妨害する者があれば、必ず重い代償を払う」と即座に反発し、日米の動きをけん制した。
中国を巡っては、米国の外交・安全保障専門家らの間で「2027年危機」という臆測が依然消えていない。
共産党の軍隊である人民解放軍が創設100周年を迎えるこの年、習近平(しゅうきんぺい)総書記(国家主席)が4期目を目指すためにも、武力による台湾統一に踏み切るのではないかとの見方だ。中国の軍備増強により現実味を増している。
習氏は昨年11月、バイデン米大統領との首脳会談で、27年の軍事行動を否定し、台湾の平和統一を重ねて強調。両首脳は米中の偶発的な衝突を避けるため、軍・国防当局間の対話再開で合意した。
習氏は武力行使を放棄していないものの、経済成長が急減速する中、武力統一が招く最悪の結果を十分に理解しているはずだ。
実際、米中高官は1月上旬「防衛政策調整対話」を約2年半ぶりに開催。オースティン国防長官と董軍(とうぐん)国防相とのトップ会談開催を模索するなど対話基調にある。
中国が統一を目指す台湾総統選では、中国が「独立派」と敵視する民進党の頼清徳(らいせいとく)氏が勝利した。中国の戦闘機・艦船は台湾海峡の事実上の停戦ライン「中間線」を越えて進入を繰り返すだろう。
しかし、南シナ海の上空で頻発していた中国軍機による米軍用機への異常接近は報告されなくなった。対話継続の環境を整えるため習政権が米軍への挑発行為を抑制していることがうかがえる。
アジア太平洋地域での軍事衝突を抑止するため、日米が平時から協力態勢を確認することは必要だとしても、対話の機運を阻害するような振る舞いは、それが演習であっても慎むべきであろう。