参院と裏金問題 真相究明 停滞許されぬ(2024年3月5日『北海道新聞』-「社説」)

 政府の2024年度予算案が衆院を通過し、参院予算委員会での審議が始まった。
 最大の焦点である自民党派閥の裏金事件は、衆院での1カ月以上にわたる審議にもかかわらず、いまだに実態がよく分からず、かえって疑念が深まっている。
 岸田文雄首相はきのうも、当事者意識の乏しい発言を繰り返し、真相究明にも再発防止策にも正面から答えなかった。自民党独自の改革案もなお、示していない。
 首相が「火の玉」となり「先頭に立って」国民の信頼回復に取り組むと宣言してから、もう3カ月近くがたつ。
 あまりにひどい言行不一致と不作為ではないか。これ以上の足踏みは許されない。
 裏金問題から逃げてばかりいては、能登半島地震少子化への対策など、あらゆる重要課題の議論が滞る。
 首相は、覚悟だけではなく本気で向き合い、実態解明に向け指導力を発揮しなければならない。
 参院予算委で首相は「説明責任を尽くしたかは、最終的には国民がどう考えるかだ。実態把握について、引き続き説明が行われなければならない」と述べた。
 衆院政治倫理審査会(政倫審)では、裏金の扱いに関する安倍派幹部らの発言が食い違う場面があり、不透明さが一層際立った。
 重要なのは、そうした証言の差異を繰り返し突き合わせ、だれがごまかしているのか、真相を明らかにすることだ。
 ただ「政倫審を開いた」という事実だけを強調し、疑惑を持たれた議員の言いっ放しに終わらせるのでは意味がない。
 予算案は衆院で異例の土曜日採決が行われた。年度内成立にこだわる首相は、予算案を裏金問題の幕引きに向けた駆け引き材料としか見ていなかったのではないか。
 積み残された多くの議論を封じる性急な対応と言うほかない。
 自民、立憲民主両党は予算通過に際し、さらなる衆院政倫審の開催や、政治改革のための特別委員会の設置などで合意した。参院でも政倫審が開かれる。
 こうした事件を二度と起こさないための仕組み作りをしっかり行いつつ、裏金づくりの全容解明が最重要課題であることを忘れてはいけない。
 野党の役割も重要である。政治史に残る正念場に立つことを深く自覚し、野党同士の足の引っ張り合いは慎み、政局優先ではない中身の濃い議論に徹するべきだ。