岸田首相と裏金国会 真相の解明はこれからだ(2024年3月5日『毎日新聞』-「社説」)

2024年度予算案が賛成多数で可決され一礼する岸田文雄首相(右)ら閣僚たち=国会内で2024年3月2日午後4時48分、和田大典撮影


 自民党派閥の裏金事件で国民の政治不信が高まる中、国会審議をないがしろにする強引な姿勢が目に余る。疑惑の解明に背を向けていると見られても仕方あるまい。

 今国会の最大のテーマは、派閥パーティー収入の所属議員への還流と裏金作りの全容を明らかにし、再発防止に向けた政治改革につなげることだ。

 にもかかわらず、安倍派幹部4人が出席する衆院政治倫理審査会が終わらぬうちに、与党は新年度予算案の採決を強行しようとした。年度内成立を確実にする日程にこだわり、政倫審を軽んじた。

 与野党対立の激化を招き、土曜日に質疑と採決がずれ込む異例の展開となった。

 岸田文雄首相は「能登半島地震の復興対応が含まれている」と主張したが、そもそも衆院の日程が窮屈になったのは、政倫審出席を巡る自民内の混乱が主な原因だ。

 衆院政倫審では、裏金作りの経緯や実態は明らかにならず、むしろ疑問が膨らんだ。

 安倍派の幹部会で一旦決まった還流の廃止方針が覆った経緯について、証言の食い違いも明らかになった。真相解明には、下村博文文部科学相ら同席した他の幹部の話を聞くことが不可欠だ。派閥会長だった森喜朗元首相の国会招致も検討すべきだ。

 きのうから予算案の審議が始まった参院では、安倍派幹部の世耕弘成参院幹事長らを対象とする政倫審が開かれる見通しだ。

 衆院でも今後、政倫審を継続することで与野党が合意した。既に出席した6人のほか、5人程度が弁明の機会を求めているという。本来、関係した全ての議員が国会の場で説明するのが筋である。

 政倫審での説明が不十分なら、自民は関係者の証人喚問に応じるべきだ。首相は党総裁として指導力を発揮する必要がある。

 衆院には今後、政治改革に関する特別委員会が設置される。与野党政治資金規正法の「抜け道」をふさぐ抜本改正に取り組まなければならない。

 国民が求めているのは、疑惑の全容解明だ。予算成立のめどが立ったからといって、幕引きを図ることは許されない。首相には全力を挙げて不信の払拭(ふっしょく)に努める責務がある。