予算案通過と政倫審 疑惑置き去り強引さ際立つ(2024年3月3日『河北新報』-「社説」)
疑惑に対する説明責任には早々と背を向け、能登半島地震への対応を口実に2024年度予算案の衆院通過と裏金問題の幕引きを急いだ。
岸田文雄政権の姿勢は、奥能登地方の苦境に思いを寄せる東日本大震災の被災地から見ても決してフェアなものとは言えない。国民の不信をいっそう深める強引な国会運営は厳しい非難に値する。
新年度予算案がきのう衆院を通過し、憲法の規定により年度内成立が確実になった。
岸田首相は衆院予算委員会で「能登半島地震の復興や国民生活に深く関わる」と述べ、予算案の早期成立の重要性を強調した。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、これまで不十分な党内調査しか行わず、渦中の議員に説明を尽くさせることもなかったことを考えれば、あまりに都合の良すぎる主張ではないか。
参院へと移る審議はむろん重要だが、政治への信頼が決定的に損なわれた現状では、重要施策の推進はおぼつかない。
裏金づくりが始まった経緯や具体的な使途を明らかにする責任からは、決して逃れられないことを自覚すべきだ。
予算案の通過に先立ち、2日間の日程で開かれた衆院政治倫理審査会(政倫審)は、出席者から言い逃れのような発言ばかりが目立った。
特に安倍派で事務総長を務めた西村康稔、松野博一、塩谷立、高木毅の4氏が出席した1日の審査会での答弁は知らぬ存ぜぬの一点張り。
遅くとも十数年前に始まったとされる派内の裏金づくりについて4人は「会計には関与していなかった」などとしか答えなかった。自身の裏金の扱いも「秘書に任せていた」と責任転嫁に終始した。
派閥から議員への資金還流は22年、当時会長だった安倍晋三元首相の指示でいったんは廃止されたものの、安倍氏の死後、派閥幹部による協議を経て復活した。
安倍氏を含め幹部らが当時から違法性を認識していたことが疑われる経過だが、出席者は「還流が違法か適法かの議論はしていない」(西村氏)「(収支報告書への)不記載の話題は出なかった」(塩谷氏)と否定した。
にわかに信じがたいが、仮に事実だとしても、政治資金規正法の理念に相いれないのは明らかだ。自身の今後の責任の取り方についても何ら言及はなく、規範意識の低さはあきれるばかりだ。
自ら初日の審査会に出席した岸田首相も繰り返し「説明責任」を口にしながら、法改正や裏金議員の処分の話をちらつかせ、国民が求める真相究明をうやむやにしようとしていたように見える。
政倫審を国会対策の具のように扱う政権に、政治への信頼回復という重い課題が担えるのか。国民の目がさらに厳しさを増したことを肝に銘じるべきだろう。
【成果なき政倫審】政治不信は膨らむ一方だ(2024年3月3日『高知新聞』-「社説」)
事前の混乱から予想されたとはいえ、衆院の政治倫理審査会は消化不良に終わった。新たな証言など成果もない形ばかりの開催では、政治への不信は膨らむ一方だろう。
岸田文雄首相(自民党総裁)や派閥幹部の弁明は、衆院予算委員会や記者会見での説明の域を出なかった。政治資金パーティーを巡る裏金事件の反省、説明責任を果たそうとする姿勢が乏しいと言わざるを得ない。偽証罪に問われ得る証人喚問などを含め、国会は真相解明へさらに踏み込むべきだ。
裏金事件では、東京地検特捜部が安倍派(清和政策研究会)の会計責任者や受領額の大きい議員、二階派(志帥会)と岸田派(宏池会)の元会計責任者ら計10人を立件した。刑事責任の追及は一段落したが、道義的、政治的責任は当然残る。
政倫審はそうした責任を果たす場だった。裏金づくりはいつ始まったのか。政治活動以外には使われていないのか。国民の疑念にどう答えるかが注目されたが、何一つ解明には至らなかった。
2日間の審査では「自ら説明責任を果たす」と意気込んだ岸田首相をはじめ、派閥幹部の人ごとのような姿勢、言い訳ばかりが目立った。
岸田首相は、会長を務めた岸田派の収支報告書不記載を「事務処理上の疎漏」と表現。裏金づくりが始まった経緯や裏金の使途についても党の聞き取り調査をなぞるだけで、明確に説明できなかった。
派閥幹部も知らぬ存ぜぬで責任逃れに懸命な印象だった。二階派の武田良太事務総長は派閥代表の二階俊博元幹事長の擁護に終始、旧態依然とした派閥体質を見せつけた。
安倍派の塩谷立座長のほか、西村康稔前経済産業相や松野博一前官房長官、高木毅前国対委員長の事務総長経験者も同様だった。会計には関与していないとして、立件の対象外だったと強調。派閥の事務局長や事務所秘書ら、各政治団体の会計責任者に責任を押し付けた格好だ。
安倍派では2022年4月、会長だった安倍晋三元首相が還流をやめるよう事務総長の西村氏に指示。安倍氏の死去後、復活が決まったとみられる。その経緯は焦点の一つだが、幹部4人の弁明通りなら誰も主体的に判断することなく、重大な方針転換がなされたことになる。不可解というほかない。
あらためて「政治とカネ」問題に対する責任を考える必要があろう。自民党は不祥事のたび、議員個人の説明責任を強調するだけで、問題をなおざりにしてきた。裏金事件でも対象議員の言い分をまとめた聞き取りだけで、実態解明には消極的だ。肩透かしの政倫審はそうした姿勢の表れといえる。政治刷新をうたったところで説得力はない。
自民党に自浄作用が期待できない以上、国会が強い権限を持って真相に迫るほかあるまい。自民党は自ら、信頼回復への重要な機会を失った。24年度予算案は3月中の成立が確実になったが、裏金事件は当然ながら幕引きとはいかない。
政治倫理審査会 実態解明にはほど遠い(2024年3月3日『琉球新報』-「社説」)
政治の場で「説明責任」という言葉がこれほど空虚に響いたことがあるだろうか。疑惑は残ったままであり、国民は納得しない。証人喚問で事実を明らかにするしかない。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会(政倫審)が2月29日、3月1日に開かれた。出席した岸田文雄首相や安倍、二階の両派閥の事務総長経験者らの説明は衆院予算委員会や記者会見における説明の域を出なかった。事実解明にはほど遠い。
出席者は「反省している」「説明責任を果たす」と釈明しながら、事実関係について「存じ上げない」「経理・会計業務には関与していない」「パーティー収入については認識していない」などのあいまいな説明に終始した。
政治に対する国民の不信が極まる中で、疑惑を向けられた政治家の常とう句である「記憶にない」「秘書がやった」などという言い訳は到底通用しない。国民が知りたいのは、パーティーによる裏金づくりが始まった経緯は何か、なぜ違法行為が放置されたのか、裏金を何に使ったのか、脱税が行われているのでは、などである。それらの疑問に明確に答えるべきだ。
29日の岸田首相の政倫審出席は安倍派幹部の出席を促した効果はあろう。しかし、これだけでは国民は許さない。疑惑発覚直後から岸田首相がリーダーシップを発揮していれば、史上初の現職首相出席という奇策を講ずることなく、全面公開による政倫審開催にこぎ着けることができた。
実態解明につながるような新たな説明も岸田首相からはなかった。2022年の就任以降、7回のパーティーを開き、多額の収入を得ていたことを批判される始末である。岸田首相は在任中、パーティーを開かない考えを明らかにしたが、安易な資金集めに国民はあぜんとしたはずだ。
1日の政倫審には事件の焦点である安倍派で事務総長を経験した西村康稔前経済産業相、松野博一前官房長官らが出席した。パーティー券による資金還流について西村氏は「歴代派閥会長と事務局長の慣行」と説明した。松野氏も20年以上の慣行だった可能性に触れた。
20年以上の慣行であるならば、安倍派の前身である森派の会長であった森喜朗元首相から事情を聴く必要がある。森氏も応じるべきだ。
資金還流を政治資金収支報告書に記載せず、「私的流用はない」と言いながら使途を明かさない議員に対し、国民は厳しい目を向けている。ネット上では「#確定申告ボイコット」という投稿があふれている。国民は厳密に納税を求められるのに国会議員は脱税が許されるのかという怒りが渦巻いている。事件に関与した議員は直視すべきだ。
2日間の政倫審で国民の政治不信は一層深まった。証人喚問による事実解明を避けてはならない。
予算強行の単なる口実づくり
政治倫理審査会(政倫審)は裏金事件の説明責任を果たすためではなく、予算案の衆院通過を強行するための単なる口実づくりだった―。衆院で2月29日と3月1日に開かれた政倫審と1、2日の予算案採決をめぐる動きは、事件の真相解明に背を向ける岸田文雄首相の姿勢を浮き彫りにしました。
証人喚問こそ必要
政治資金パーティーの収入をめぐる自民党の派閥ぐるみの裏金づくりは、政治資金規正法に違反した組織的犯罪で、金権腐敗根絶のための徹底究明が今国会の大きな責務です。真相解明には、一体、誰が何の目的でいつ裏金づくりを始めたのか、いったん廃止を決めたのになぜ継続されたのか、具体的に何に使ったのかなどを明らかにすることが重要です。
2日間にわたる政倫審には、岸田首相と安倍派、二階派の事務総長経験者ら5人が出席しましたが、肝心の点は何も明らかにされませんでした。首相は極めて不十分な自民党の聞き取り調査報告書(2月15日公表)の内容をなぞるだけで、裏金づくりが違法であるとの認識さえ示しませんでした。
安倍派の西村康稔氏(前経済産業相)は、派閥の政治資金パーティー収入の議員への還流は「歴代会長と事務局長との間で慣行的に扱われてきた」とし、帳簿や収支報告者なども「見たことがない」と述べ、「事務総長は会計に一切関与していない」などと弁明しました。派閥の実務の最終責任者である事務総長が経理に関与していないとは到底信じられません。
知っているのは元会長と事務局長だというなら両者にただすのが当然ですが、「(元会長で)亡くなられた方も多い」「(事務局長は)裁判を控えている」などと拒否しました。歴代会長では安倍晋三元首相、細田博之前衆院議長らが故人となっていますが、森喜朗元首相にただすことは可能です。しかし、森氏についても「関与していたという話は聞いたことがない」と拒みました。西村氏は第三者が確認した方がいいと述べましたが、そうであるなら森氏を国会に呼んでただすしかありません。
安倍派では、安倍氏が会長だった2022年4月に還流をやめる方針を一度決めたものの、安倍氏の死去後、還流は復活しました。しかし、誰がどのような場で継続を決めたのか不明のままです。当時の派閥幹部の協議に参加していたとされる下村博文元文部科学相や世耕弘成前党参院幹事長らをただす必要があります。政倫審で真相が解明されなかった以上、森、下村、世耕の各氏、安倍派幹部らの証人喚問が不可欠です。
抜本的組み替えを
当初、自民党が完全非公開を主張してめどが立たなかった政倫審は、岸田首相が全面公開での出席を表明したのを受けて開かれました。狙いは裏金事件の解明で範を示すというものではなく、予算の年度内成立が可能な2日までに何としても衆院を通過させることでした。それは初日の政倫審が終わった途端、予算案の採決日程の決定を強行したことから明白です。
予算案は国民の暮らしを破壊し空前の大軍拡を進めるもので、参院での徹底審議を通じ抜本的に組み替える必要があります。同時に、衆院で裏金事件の徹底究明を続けることが求められます。これで幕引きにすることは許されません。