自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で、政治資金規正法違反の罪に問われている安倍派の会計責任者の裁判が10日から東京地方裁判所で始まります。一連の事件では、公開の法廷で審理が行われるのは初めてで、会計責任者は虚偽記載を認めるものとみられ、裁判で議員へのキックバックの経緯などがどこまで明らかになるのか注目されます。
安倍派「清和政策研究会」の会計責任者、松本淳一郎被告(76)は、2022年までの5年間で▽あわせておよそ6億7500万円のパーティー収入などを派閥の政治資金収支報告書に収入として記載せず、▽議員側にキックバックした分などほぼ同額の支出も記載しなかったとして、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪に問われています。
一連の事件では安倍派、二階派、岸田派の会計責任者や元会計責任者、それに、議員やその秘書らあわせて10人が政治資金規正法違反の罪で立件されていますが、公開の法廷で審理が行われるのは今回が初めてです。
初公判は10日午後2時半から東京地方裁判所で開かれ、松本・会計責任者は虚偽記載を認めるものとみられます。
安倍派では、所属議員に派閥のパーティー券の販売ノルマが設定され、ノルマを超えて集めた分については議員側にキックバックし、その分は派閥側や議員側の収支報告書に記載しない運用が長年続いてきたとされ、裁判ではこうした経緯がどこまで明らかになるのか注目されます。
松本・会計責任者とは
裁判の焦点は
公開法廷での審理としては一連の事件で初めてとなる、今回の裁判のポイントをまとめました。
【1.認否は】
1つめは、起訴された内容を認めるかどうかです。
関係者によりますと、松本・会計責任者は捜査段階で、「記載しなければならないことはわかっていた」などとして派閥の収支報告書に収入の一部などを記載しなかったことを認めていたということで、今回の裁判でも虚偽記載を認めるものとみられます。
【2.議員側の認識は】
2つめは、キックバックを受けていた議員側とのやり取りです。
キックバックを受けていた複数の議員の秘書は、捜査段階で「派閥側からのキックバックは現金で受け取り、政治資金収支報告書に記載しないよう指示された」などと説明したとされています。
松本・会計責任者が▽議員側にキックバックや収支報告書への記載に関して指示や説明をしていたのか、▽また、収支報告書に記載しないことの違法性について、議員側に共有していなかったのか、法廷で言及する可能性があります。
【3.キックバック・虚偽記載の実態は】
3つめは、長年にわたるパーティー券をめぐる不透明な運用の実態が、どこまで明らかになるかです。
安倍派では当選回数などに応じて所属議員に派閥のパーティー券の販売ノルマが設定され、ノルマを超えて集めた分については議員側にキックバックし、それを派閥側や議員側の収支報告書に記載しない運用が長年行われていたとされています。
しかし、こうした運用がいつ、誰の指示で、どのような目的で始まったのかは明らかになっていません。
裁判では、2019年に就任した松本・会計責任者が、前任からどのように引き継ぎを受けていたかなどが明らかになる可能性があり、注目されます。
【4.派閥幹部の認識は】
そして4つめは、派閥幹部の認識です。
安倍派「5人衆」と呼ばれた松野・前官房長官、高木・前国会対策委員長、世耕・元経済産業大臣、萩生田・前政務調査会長、西村・前経済産業大臣、それに、座長を務めた塩谷・元文部科学大臣や、事務総長経験がある下村・元政務調査会長ら当時の幹部はいずれも派閥の会計処理には関与していないなどとして、収支報告書の虚偽記載への関わりを否定しました。
また、2022年には会長だった安倍元総理大臣がキックバックをやめるよう指示しましたが、安倍氏が死去した翌月の2022年8月、当時、西村氏、塩谷氏、世耕氏、下村氏と、松本・会計責任者が集まった会合で取り扱いが協議され、最終的にキックバックは継続されました。
この会合をめぐっては国会の政治倫理審査会でも当時の幹部が証言しましたが、説明が食い違っている部分もあり誰が主導してキックバックが継続されたのかなど、疑問点は解消されませんでした。
裁判では、会合に参加していた松本・会計責任者が▽キックバックをめぐる幹部らの議論の内容や▽収支報告書に記載しない処理を続けることになった経緯について証言をするかどうかも注目されます。
派閥の政治資金事件とは
自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件では安倍派、二階派、岸田派の会計責任者や元会計責任者、それに国会議員などあわせて10人が政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で立件され、このうち略式起訴された4人はすでに有罪が確定していて、残る6人については今後、裁判が開かれます。
【派閥側】
安倍派「清和政策研究会」では会計責任者が2022年までの5年間で、パーティー収入などおよそ6億7500万円を派閥の政治資金収支報告書に収入として記載していなかったほか、支出についても、主に議員側にキックバックした分の6億7600万円あまりを記載しなかったとして在宅起訴されています。
二階派「志帥会」では、元会計責任者が2022年までの5年間でパーティー収入など2億6400万円あまりを記載せず、支出についても1億1600万円あまりを記載しなかったとして在宅起訴されています。
岸田派「宏池政策研究会」では、元会計責任者が2020年までの3年間のパーティー収入など3000万円あまりを記載しなかったとして略式起訴され、すでに有罪が確定しています。
一方、特捜部は安倍派「5人衆」と呼ばれた松野・前官房長官、高木・前国会対策委員長、世耕・元経済産業大臣、萩生田・前政務調査会長、西村・前経済産業大臣、それに、座長を務めた塩谷・元文部科学大臣や、事務総長経験がある下村・元政務調査会長、二階派の会長を務めてきた二階・元幹事長ら派閥の幹部については立件しませんでした。
【議員側】
議員側では、安倍派に所属し、党を除名処分となった池田佳隆 衆議院議員が2022年までの5年間に4800万円あまりのキックバックを受けたにもかかわらず、政治資金収支報告書に寄付として記載しなかったとして、政策秘書とともに逮捕・起訴されました。
同じく安倍派に所属し、自民党を離党した大野泰正 参議院議員と秘書は派閥からキックバックされた5100万円あまりの寄付を記載していなかったとして在宅起訴されました。
また、安倍派に所属し議員辞職した谷川弥一 元衆議院議員と秘書だった娘は派閥からキックバックされた4300万円あまりの寄付を記載していなかったとして略式起訴され、罰金などの略式命令が確定しています。
このほか、二階・元幹事長の秘書が、3500万円あまりのパーティー収入を二階派に納入せず、二階・元幹事長の資金管理団体の収支報告書に派閥側からの収入として記載していなかったとして略式起訴され、罰金などの略式命令が確定しています。
立件された10人のうち6人については今後、裁判が開かれる予定で、10日始まる松本・会計責任者の裁判のほか、6月19日には二階派の元会計責任者の初公判が開かれることになっています。