堂々とウソがつけないと国会議員は務まらない…裏金問題が「自民党の完全勝利」に終わった根本原因(2024年3月5日)

■真相解明が進む可能性はほぼ消滅した

 ウソをついたら偽証罪に問われる証人喚問に彼らを引っ張り出さない限り、真相究明は難しいことを改めて印象付ける結果に終わったのである。

 ところが、自民党は完全公開の政倫審開催で一定の説明責任は果たされたとして幕引きを図る構えだ。

 自民党は政倫審翌日の3月2日に衆院予算委員会と本会議で新年度予算案を可決して参院へ送付することに成功し、年度内成立を確実にした。これによって参院の予算審議で裏金疑惑の真相解明が進む可能性はほぼ消滅したといっていい。

 そのカラクリを説明しよう。

 国会審議や採決の日程は、与党第1党である自民党国会対策委員長(浜田靖一氏)と野党第1党である立憲民主党国対委員長(安住淳氏)の密室協議で決まっていく。最後は数の力で勝る自民党が審議日程を一方的に決定できるものの、あまり強引に押し切ると世論の批判を浴びるため、立憲の意向をできる限り受け入れながら与野党合意で穏便に進めていくのが通例だ。立憲は数の力では劣るため、世論を味方につけながら自民党に譲歩を迫っていくほかない。そもそも与野党の国対協議は野党が圧倒的に不利なのである。

■国会日程を密室で決める国対政治

 だが、自民党の裏金事件に世論の怒りが沸騰し、今国会は立憲が自民党を攻め立てることができる千載一遇の好機のなかで開幕した。新年度予算案を審議する衆院予算委は毎年、野党が疑惑を追及する「国会の花形」と呼ばれる。今国会では裏金疑惑追及の主戦場となった。

 予算案は憲法の規定により、衆院で可決し参院に送付された後、30日で自然成立する。3月2日までに衆院を通過して参院に送付すれば、参院で可決に至らなくても3月31日までに成立することになり「年度内成立」が確実になる。

 予算案が年度内に成立しない場合、行政執行を止めないように暫定予算をつくって国会で承認を得る必要がある。この事態を避けるため、与党国対は3月2日までの衆院通過を最重要課題として野党国対と水面下で日程協議を進める。野党国対は引き換え条件として「首相出席の集中審議」や「疑惑をめぐる証人喚問」などを求めていく。

 これがいわゆる「国対政治」だ。  国対政治はすべて水面化で繰り広げられるため、何と何が裏取引されたのかという全貌は見えてこない。このため、与野党国対委員長がそれぞれ自らの党内基盤を強化するために協力しあったり、使途を明らかにする必要のない官房機密費が投入されて「カネによる解決」が図られたりするという疑念がこれまでも指摘されてきた。まさにブラックボックスの世界なのだ。

 

自民党の狙いは「証人喚問の阻止」

 自民と立憲の国対委員長は強大な権限を握り、それぞれの党首の意向や党内情勢、世論の動向などさまざまな観点を考慮しながら、国会日程を相談していくのである。

 年度内成立が確実になれば、自民国対は参院審議で野党に譲歩する必要がなくなる。野党国対が裏金議員の証人喚問を激しく求めて審議日程で抵抗しても、受け流しておけば3月31日までに予算案は自然成立するからだ。野党は参院で日程闘争しても意味がないため、与党の要求通りに審議日程を受け入れ、そのレールに乗って質疑していくほかない。

 予算案の「年度内成立」の確定は、参院予算審議での疑惑追及を無力化するといっていい。だから自民党は3月2日までの衆院通過に躍起になるのである。3月3日に衆院通過が1日ずれ込むだけで、与野党国対の力関係は激変するのだ。

 自民国対が裏金疑惑が最大の焦点となる今国会で最終防衛ラインに据えたのは、証人喚問の阻止だった。ウソをつけば偽証罪に問われる証人喚問に裏金議員が次々に引っ張り出され、野党から吊し上げられる様子がテレビを通じて広く報道されれば、裏金議員たちの政治生命が終わるだけではなく、裏金疑惑は際限なく広がって自民党のダメージは計り知れない。

■野党もマスコミも自民党に乗せられた

 証人喚問を避けるための装置が政倫審である。疑惑を抱かれた政治家が自ら釈明する場として設置され、原則は非公開で、出席に強制力はなく、ウソをついても罰せられない。証人喚問に比べて受け入れやすく、ダメージも少ないのだ。

 衆院の予算審議が大詰めを迎えた時点で政倫審開催に応じ、それと引き換えに野党に3月2日までの予算案の衆院採決を受け入れさせる――それが自民国対が当初から描いた筋書きだった。

 政倫審を最大の見せ場としてショーアップし、政倫審開催を山場として裏金疑惑を収束させていく。そのためには最初から簡単に政倫審開催を認めるわけにいかない。予算審議が始まる当初は開催自体を渋り、次に出席者の数を限定し、最後に完全公開に抵抗する。そのような形で徐々に譲歩していき、衆院採決目前の大詰め段階でようやく「政倫審の完全公開での実施」を容認して、その代わりに「3月2日までの予算案の衆院通過」を立憲にのませるシナリオを着実に進めてきた。

 政倫審開催を最大の焦点に据えることで、証人喚問をめぐる与野党の攻防に関心が高まらないようにする世論誘導策に、野党もマスコミも乗せられてしまった感は否めない。

■政倫審は完全公開になったけど…

 自民国対にとって想定外の出来事は、岸田首相が途中でしゃしゃり出てきて、野党が要求もしていないのに首相自身が完全公開の政倫審に出席する意向を表明したことだった。

 岸田首相は自らが率先して動くことで、完全公開での政倫審出席を渋る安倍派幹部らに翻意を迫り、世論の喝采を得ようとしたわけだが、自民国対にとっては迷惑な話だった。もとより立憲国対とは「完全公開」という落としどころは決まっていたからだ。立憲国対に花を持たせるはずの譲歩案を岸田首相に横取りされてしまったのである。

 この想定外の事態を受けて、自民国対と立憲国対がどのような密室協議を行ったのかは明らかになっていない。だが、双方は、①2月29日と3月1日に完全公開で政倫審を実施する、②3月1日に立憲は小野寺五典衆院予算委員長の解任決議案と鈴木俊一財務相不信任決議案を提出し、本会議場で長時間演説を行って深夜国会に持ち込み、徹底抗戦をアピールする、③3月2日の土曜日に異例のかたちで衆院予算委員会と本会議を開催して予算案を採決し、同日のうちに参院へ送付する――というシナリオで合意したのだった。

■自民国対の完全勝利

 この合意は自民国対の完全勝利といっていい。予算案を3月2日までに参院に送付して年度内成立を確定させ、参院予算審議での裏金追及を無力化し、今後の証人喚問要求を突っぱねる環境が整ったからだ。「証人喚問阻止」という最終防衛ラインを守り切ったのである。衆院採決目前の政倫審で裏金疑惑の幕引きを図る筋書き通りの決着といえる。

 これに対し、立憲国対はいったい何を目指してきたのか、国会日程闘争の目的がはっきりしない決着となった。3月1日に解任決議案や不信任決議案を乱発し、長時間演説までして審議を引き延ばしたのは、予算案の衆院通過・参院送付を3月3日以降に先送りし、参院審議で「予算案の年度内成立」を人質に取って、裏金議員を証人喚問に引っ張り出すためではなかったのか。

 3月2日の衆院通過・参院送付を容認してしまったら、深夜国会に持ち込む審議引き延ばしに実質的な意味はない。単に「立憲民主党は最後まで抵抗しました」という世論向けのアリバイづくりだったと批判されても仕方がない。日程闘争を仕掛けるのなら、3月2日の衆院通過・参院送付を体を張ってでも阻止しなければならなかったのだ

■切れ味を欠いた野党議員の追及

 立憲国対は3月2日の衆院通過にあわせて、自民国対と①参院で予算が成立した後、衆参両院で予算委の集中審議を行う、②政治とカネの問題について参考人招致などの協議を継続するとともに、政倫審で申し出のある議員の弁明および質疑を行う、③4月以降、衆院に「政治改革特別委員会」を設置する――などで合意したが、これでは裏金議員の証人喚問は実現しそうにない。

 

ジャーナリスト 鮫島 浩

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