予算案衆院通過 国民の疑念、晴らさぬままに(2024年3月3日『中国新聞』-「社説」)

 きのう、異例の「土曜国会」で2024年度政府予算案は衆院を通過した。憲法の規定で、予算案は参院送付後30日で自然成立する。23年度内の成立が確定した。

 政府・与党はおととい衆院政治倫理審査会と並行して予算委員会を開き、採決を強行する日程を構えた。あまりに不誠実と言わざるを得ない。

 というのも、政治資金パーティーを悪用した自民党派閥による裏金事件の実態解明は一向に進まず、予算案の審議も尽くされていないからだ。

 反発した野党は予算委員長の解任決議案提出などで徹底抗戦。与野党の攻防は深夜まで及んだ。政府・与党側は国民の目も気にしたのか、最終的に予算委と本会議の採決はきのう午後に持ち越された。

 政倫審の焦点は大きく二つあった。ノルマ超過分のパーティー券収入を政治資金収支報告書に記載せず裏金化していた経緯と、裏金の使途だ。

 ところが、おととい出席した安倍派の幹部4人の証言では何一つ解明されなかった。「存じ上げない」「不正利用はない」を連発する態度は、不信感を高めた。

 派閥からの還流は一昨年、安倍晋三元首相が幹部と取りやめを決めたが、安倍氏の死去後に復活した。誰がなぜ覆したのか、こちらも詳細が不明なまま済む問題ではない。

 政倫審に出席するなら、森喜朗元首相ら事情を知るとみられる関係者にただしておくべきだった。仮に事件発覚時には還流の実態を把握していなかったとしても、である。

 安倍派幹部の態度には、その前日に出席した首相以上に踏み込んだ発言はしなくていい、との考えが見て取れた。首相はこれまでの国会答弁を繰り返したり、党の調査報告をなぞったりするだけで説明責任を果たしていなかった。

 出席者や公開の在り方を巡って自民党内の調整が進まない中、首相自ら政倫審出席を申し出て事態の打開を狙った。予算案を採決に持ち込むために政倫審を利用したのではないか。政治への信頼回復は二の次だったことになる。

 それどころか、確定申告シーズンの中、裏金問題は国民の納税意識に大きなダメージを与えた。裏金が課税対象に該当する可能性を問われた鈴木俊一財務相は、納税するかどうかは「議員の自由判断」と受け取られる答弁をし、税への信頼感まで損なった。首相と自民党はもっと深刻に受け止める必要がある。

 来週から予算案の審議は参院に移る。能登半島地震の復旧・復興支援や少子化対策、防衛費の財源など、衆院で深まらなかった課題について「熟慮の府」で議論を深めてもらいたい。政府・与党は年度内成立が確定したからといって、裏金問題に関する野党の追及をかわすような態度は慎むべきだ。

 自民党内では、茂木敏充幹事長らの後援会組織で不明朗な会計処理も判明している。国会への参考人招致や証人喚問、第三者による調査を含め、裏金問題の徹底解明が求められる。国民の疑念を晴らさぬまま、幕引きを図ることは許されない。