エンゲージメント指数(2024年3月4日『新潟日報』-「日報抄」)

 「エンゲージ」といえば、婚約指輪の「エンゲージリング」しか思い浮かばない。そんな浅学を恥じつつ、名詞形の「エンゲージメント」には本来「約束、没頭」などの意味があると知った

▼ビジネス界では、会社に対する従業員の貢献意欲や愛着感を意味する。これを数値化したのがエンゲージメント指数で、米調査会社によると2022年時点で日本では5%にとどまる。世界の平均23%に比べると最低水準でお寒い限りだ。職場で時計を眺めては、就業時間終了をただ待っているような人が7割もいるという

▼戦後、この国は大手企業を中心にした終身雇用と年功序列、企業別労働組合という3本柱が高度経済成長の原動力にもなった。大過なく、真面目に勤めれば一生安泰-。そんな職場が愛社精神を育んだ

▼しかし、グローバル経済が状況を変えた。労使対等の双方向性を重んじる欧米企業に対し、上下関係優先の日本的経営は非効率で、経済低迷の一因ともいう。いまや就業者6人に1人が転職を希望し、終身雇用は空洞化している

▼なぜだろう。物価変動を踏まえた実質賃金は2年連続で減った。大企業の決算は絶好調な一方、賃金の安い非正規雇用は増加傾向が続く。平均株価が史上最高値になっても、庶民に熱気は伝わらない

▼「株など縁がない」。多くの人には、相場は格差拡大の縮図と映るのでは。春闘は地方の中小企業で本番に入った。物価上昇をカバーできない賃上げでは、エンゲージメントは引き上げようもない。