各地で雪崩事故 生死分ける備えの大切さ(2024年3月4日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 この時季、雪に覆われた山岳で頻繁に起きるのが雪崩事故だ。

 北アルプス北部にある風吹(かざふき)岳近くで2日、山スキーを楽しもうと入山していた2パーティーの10人が遭難した。

 命にかかわる大事にこそならなかったが、2人が県警ヘリで病院に運ばれた。

 この日は同じ北ア北部の遠見尾根でも山スキー中の1人がけがをした。鳥取県の大山(だいせん)では雪上訓練をしていた2人の行方が分かっていない。翌3日も北海道の利尻山で4人が救助され、1人が亡くなった。

 備えの大切さを、あらためて肝に命じたい。

 風吹岳の事故では、雪崩に埋まった人の位置を絞るビーコン(電波送受信機)や、雪面に突き刺して埋まった人を捜し出すゾンデ棒、スコップをメンバーが携行していた。いずれも今日の雪山登山では必携の装備だ。

 遭難者によれば、沢筋の斜面で隊列を組み、降り積もった雪をかき分けて進んでいた。見通しはきいていたとみられる。何が起きたか分からぬまま、「一瞬で雪に埋まった」という。

 たまたま列を離れていて埋まらなかったメンバーがいたのが幸いだった。先に助けた仲間とともにビーコン、シャベルを使って全員を掘り出せた。

 搬送された2人は長時間埋まり、低体温症で意識がもうろうとしていたという。もし埋もれずに済んだ人がいなかったら、もし装備が不十分だったら―。最悪の事態を招いていたかもしれない。

 メンバーは普段から雪面の亀裂などを見て雪崩には気をつけていたという。ただ、この日の詳しい気象、積雪は調べないまま入山していたと省みている。

 推測されるのは「表層雪崩」だ。風や日射、気温上昇でいったん溶け、固まった雪面がちょうど滑り台になり、その上に積もった新雪が音もなく、斜面の広範囲で一気に流れ落ちる。

 一帯では1日夜から2日朝にかけて冬型の気圧配置が強まり、麓の小谷村の観測点でも12時間で18センチの積雪があった。表層雪崩が起きやすい状況だった。

 専門家らでつくる日本雪崩ネットワーク(白馬村)は、雪崩の危険度を5段階で示し、警戒を呼びかけていた。

 暖かさが続いたかと思えば真冬に逆戻りする不安定な天候が続いている。気象台の予報も含め、しっかりした情報収集と装備、訓練で雪山に臨んでもらいたい。