日本の国内総生産(GDP)が2023年、ドイツに抜かれて世界4位に転落した。急速な円安でドル換算額が目減りした影響が大きいとはいえ、GDPの5割超を占める個人消費の停滞も響いている。物価高を上回る賃上げなくして経済成長はかなわない。
日本国内の経済規模をそのまま表す名目GDPは過去最高の591兆円超だった。ドル換算すると4兆2106億ドルで、ドイツの4兆4561億ドルを下回った。ドイツの物価高が日本を超す勢いだったことも影響したようだ。
1968年以降、日本は米国に次ぐ2位を保ってきたが、2010年には中国に抜かれた。ドイツに続き、インドにも近く追い抜かれるとの予測もある。経済規模を背景とした国際社会、アジアでの存在感が低下しかねない。
円安の恩恵を受けた輸出関連産業などが軒並み収益を伸ばし、現在の株価はバブル経済期並みの最高値水準で推移する。一方、原料高に伴う値上げラッシュが続き、設備投資の動きも鈍いままだ。内需を伴わないため、国民生活に好況の実感は乏しい。日本経済のゆがみと言えるのではないか。
物価変動を考慮した23年の実質賃金は前年比2・5%減で、23年12月まで21カ月連続で前年同月より減った。国民の節約志向が強まるのは当然だ。23年10~12月期の物価変動を除く実質GDPは年率換算で0・4%減り、2四半期連続のマイナス成長だった。所得増の期待感が膨らまないと、消費意欲は高まりようがない。
今春闘は昨年に続き、大企業を中心に賃上げへの強い意欲がうかがえる。実質賃金の持続的な上昇を見据えてほしい。労働者の7割を占める中小企業にどこまで波及するかも焦点となる。岸田文雄首相は施政方針で「政府による公的賃上げ」を約束した。あらゆる手だてを尽くすべきだ。
バブル崩壊以降、日本企業はコスト減を優先し、賃上げや設備投資を控える一方、リストラや非正規雇用を増やした。成長力をしぼませた「コストカット経営」からの転換も急ぎたい。
国民1人当たりのGDPは経済協力開発機構(OECD)の加盟38カ国の中で日本は21位、先進7カ国(G7)では最下位に甘んじる。ドイツの人口は日本の3分の2ほどだが、生産性と成長力の差を感じずにはいられない。
ドイツは、女性や高齢者らの就業を増やすなど労働市場の改革が成功したとされる。日本は人手不足による企業倒産が増えており、学ぶ点も多そうだ。少子高齢化による生産人口の減少は今後も避けられない。人手確保と賃上げを両立させる企業の経営戦略と政府の支援が求められる。
例えば、熊本県内では世界の半導体製造をリードする台湾積体電路製造(TSMC)の工場が立地し、地元企業が成長分野に参入する好機を生んでいる。日本企業には円安依存を脱し、生産性の高い成長産業を生み出し、地方に利益を還元する役割もあるはずだ。