株価最高値更新 暮らしに反映させねば(2024年2月24日東京新聞』-「社説」)

 東京株式市場の平均株価が1989年12月以来約34年ぶりに終値で最高値を更新した。投資資金が国内外から押し寄せ、市場はバブル期以来の活況を呈するが、足元の景気は改善せず、株高だけが際立ついびつな構造が続く。
 市場に流入した膨大な資金を、物価高騰に苦しむ暮らしの向上にどう反映させるか。国や経済界は真剣に取り組まねばならない。
 平均株価は22日午後、取引時間中の最高値を更新した後も上昇を続け、終値ベースでも最高値で取引を終えた。
 米半導体大手の好決算が、最高値目前で足踏みしていた株価を押し上げた形だが、大企業を中心に国内企業の収益改善が投資意欲を勢いづかせていることも要因だ。
 好調な株式市場の一方で、国内景気の現状は深刻だ。
 内閣府が公表した2023年10~12月期の国内総生産GDP)速報値は2四半期連続のマイナス成長を記録した。GDPは23年通年でもドル換算でドイツに抜かれて世界4位に転落した。
 景気不振の大きな要因は個人消費の低迷にある。政府が発表した2月の月例経済報告は景気判断を3カ月ぶりに下方修正し、個人消費について「持ち直しに足踏みがみられる」と指摘した。
 厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、23年の実質賃金は前年比2・5%減。賃上げが物価の上昇に追いついていない実態は数字的にも裏付けられている。
 日銀の大規模な金融緩和を背景とした円安は、物価高に拍車をかけて消費を低迷させる一方、輸出関連を中心とする大企業の経営には追い風となっている。好調な企業経営が暮らしの犠牲の上に成り立っているのなら、ゆがんだ構造を放置することは許されない。
 当面は、大幅な賃上げで不公平を解消していく以外に道はない。今年の春闘では、株高の中で経営が好転した企業は賃上げをためらってはならない。さらに大手企業には、取引先からの価格転嫁要請に積極的に応じ、雇用者の7割を占める中小企業の賃上げを後押しする責任もある。
 急激な株価変動で注意したいのは市場における投機的な動きだ。バブル経済の崩壊期にあったような投機の被害が暮らしに与える打撃は深刻だ。国や日銀は過去の教訓に学び、市場の動きを日々、厳しく監視すべきである。