出生数過去最少 子育てしやすい働き方を(2024年3月4日『新潟日報』-「社説」)

 少子化が進むスピードが想定を上回った。歯止めをかけるには、子どもがいたり、持とうとしたりする世帯への経済的な支援に限らず、男女ともに子育てに参画しやすくなる働き方改革を求めたい。

 厚生労働省が発表した人口動態統計の速報値で、2023年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)が過去最少の75万8631人となった。初めて80万人を下回った22年から5・1%も減った。

 死亡数は過去最多の約159万人で、出生数を差し引いた人口の自然減は約83万人だった。過去最大の減少幅となった。

 国の想定では出生数が76万人を割るのは35年と見込んでおり、12年早いペースで少子化が進んでいる。危機的な状況だといえる。

 少子化は将来的な現役世代の減少につながり、地域経済や産業の衰退、行政サービスの低下、交通手段の維持困難などさまざまな影響が懸念される。社会保障制度の根幹も揺らぎかねない。

 大幅な減少の背景には、90年ぶりに50万組を割った婚姻数の落ち込みがある。20年以降の新型コロナウイルス禍で、雇用が不安定となるとともに、パートナーと出会う機会も抑制されたためだろう。

 ただ、国の出生動向基本調査では、一生結婚するつもりのない人の割合が増加傾向にある。

 女性は結婚・出産によって家事や育児の負担が増えがちで、それまでのキャリアや収入などを失う可能性が高い。このため、女性の社会進出が進む中、結婚意欲は低下していると専門家は分析する。

 性別による役割分担にとらわれない多様な家族観を認め、企業や地域に残るジェンダーギャップ(男女格差)を解消したい。

 厚労省は従業員100人超の企業に対し、男性従業員の育児休業取得率の目標を設定し、公表するよう義務づける方針を固めた。

 対象は約5万社で25年4月から義務化し、100人以下の企業は努力義務とする。

 男性の取得率は22年度調査で約17%にとどまり、女性の80%と大きな差がある。男性の育児参加を促し、女性の負担軽減を図ることを目指さねばならない。

 特に男性の長時間労働の解消も求めたい。識者は欧州19カ国の調査を基に、夫が家事・育児を担う時間を増やせば、子を持つことに妻が前向きになると指摘する。

 政府が昨年末に決定した少子化対策「こども未来戦略」は、多子世帯の大学授業料などの無償化、児童手当や育児休業給付の拡充などを打ち出した。

 現金給付が比較的目立ち、子どもがいる世帯への家計支援のようにも映る。まず1人目の子どもを産み、育てられるような環境を整える必要がある。

 低賃金のため結婚や子育てを諦める人は多い。安定した雇用や賃上げなどの安心感も欠かせない。