処理水の放出半年/透明性保ち実績積み上げよ(2024年3月2日『福島民友新聞』-「社説」)

 東京電力福島第1原発廃炉作業で生じる処理水の海洋放出が始まり、半年となった。これまで設備や運用面で目立ったトラブルはなく、周辺海域の海水や魚類でも異常は確認されていない。

 国際原子力機関IAEA)は1月、海洋放出の開始後初めてとなる検証作業の結果を公表した。東電によるこれまでの運用について「国際的な安全基準に沿って行われている」と評価した。

 トラブルなどがあれば風評被害の深刻化や廃炉作業の停滞を余儀なくされる恐れがある。それだけに、半年間、計画通りに放出できたことは評価したい。

 処理水は半年間で約2万3400トンが放出された。ただ処理水の総量は約133万トンに上り、放出完了には数十年かかる。現状はわずか半年を終えたに過ぎない。

 東電の計画では、新年度は本年度の約1・75倍となる約5万4600トンの放出を見込んでいる。政府と東電は、今後も透明性を確保し、計画通りに放出できる実績を積み上げることが重要だ。

 福島民友新聞社など全国20の地方紙の合同調査によると、海洋放出後の本県産品の購入について「あまり気にならない」「全く気にならない」と答えた人の割合は5割を超えた。一方、「とても気になる」「少し気になる」と答えた人も3割以上いた。

 処理水の科学的な性質や安全性について、十分に理解されているとは言い難い。政府と東電は、理解醸成活動の効果を検証し、対策を強化することが急務だ。

 共同通信が各都道府県の漁連や漁協に行った調査では、回答した36団体の8割となる29団体が海洋放出に伴う風評被害が「あった」「どちらかといえばあった」とした。大多数は中国による日本産水産物の禁輸に伴う被害だった。

 中国に輸出先を依存する構造がリスクとして顕在化した。政府には、禁輸撤廃を働きかけながら、輸出先の多角化を推進し、被害の回復を図ることが求められる。

 東電は昨年10月と先月、汚染水の浄化設備でトラブルを起こした。在日本中国大使館のホームページによると、処理水の放出に関する記者の質問に対し、同大使館報道官は「度重なる事故を起こしていることは、管理の混乱、監督不十分、核汚染水処理装置の長期的信頼性の欠如を余すところなく露呈している」と答えた。

 海洋放出とは直接関係のないトラブルでも、外部からはどう見られるか分からない。東電は、国内外から厳しい目が向けられていることを肝に銘じる必要がある。