原発処理水放出開始から半年 基準値下回るもトラブル相次ぐ(2024年2月24日『NHKニュース』)

福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出が始まってから24日で半年です。これまでに3回の放出が行われましたが、原発周辺で検出されるトリチウムの値は東京電力の自主的な基準を大幅に下回っています。一方で、汚染水を処理する過程ではトラブルが相次いでいて、東京電力の安全管理に地元などから厳しい目が向けられています。
また、放出に反発した中国による日本産水産物の輸入停止措置が長期化し、影響が大きくなる中、水産事業者にとっては、中国に代わる輸出先や新たな販売先の確保が課題となっています。

福島第一原発では、汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む処理水が1000基余りのタンクに保管され、東京電力は政府の方針に従い、去年8月24日から基準を下回る濃度に薄めたうえで海への放出を始めました。
これまでに3回の放出が行われ、目立ったトラブルはなく、タンク30基に入っていた合わせて2万3351トンを放出したということです。
東京電力や国などは、原発周辺で海水を採取しトリチウムの濃度を分析していますが、これまでで最大の値は1リットルあたり22ベクレルと、東京電力が自主的に放出の停止を判断する基準の700ベクレルやWHO=世界保健機関が定める飲料水の基準1万ベクレルを、大きく下回っています。

計画の安全性を検証しているIAEA国際原子力機関は1月に、放出の開始後、初めてとなる報告書を公表し、国際的な安全基準に合致していることを再確認したと評価しました。

来年度は7回に分けて、タンクおよそ50基分にあたる5万4600トンを放出するとしていて、空になった20基余りのタンクの解体に着手する計画です。

ただ、汚染水を処理する過程では、去年10月に放射性物質を含む廃液を浴びた作業員が一時入院したほか、ことし2月7日にも浄化装置から放射性物質を含む水が漏れ出し、トラブルが相次いでいます。

処理水の放出が続く中でのトラブルに、地元の福島県などからは厳しい目が向けられていて、東京電力の安全管理が改めて問われています。

相次ぐ処理作業でのトラブルに地元では

福島第一原子力発電所では、この5か月で、汚染水の処理作業でのトラブルが相次ぎ、地元からは不安や疑念の声があがっています。

2023年10月には、汚染水の処理設備で行われていた配管の洗浄作業中にホースが外れて、作業員に放射性物質を含む廃液がかかり、皮膚に汚染が確認された男性2人が一時、入院しました。

また、2024年2月7日には、別の浄化装置で作業員が装置内の配管の弁が開いたままになっているのを見落としたまま水を通す作業を行い、放射性物質を含む水が屋外に漏れ出しました。

2月19日に開かれた原子力規制委員会の会合では、地元住民の代表として出席した福島県大熊町商工会の蜂須賀禮子会長が「東京電力には、地元の住民に失望を与えたことを認識してほしい。処理水の海洋放出について世界各国から注目というか監視の目があるにもかかわらず、確認すれば防げるようなトラブルが起きたことはすごく残念に思う。東京電力は、本気度というものを私たち県民、町民に示していただきたい。お願いですから、私たちに心配をかけないでください」などと述べました。

また、双葉町復興推進協議会の田中清一郎理事長は「もっと改善策を深掘りして考えなければいけないと思わされるほどトラブルが頻繁に起きている。社長がみずから先頭に立って廃炉を進めるから安心してほしいと発言していたが、今、そのような状況にはなっていないと感じる」と指摘しました。

こうした声に対し、東京電力福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は「心配をかけないでほしいという声に対し、簡単にわかったとは言えない。安全、安心な状態になるかは、今後のわれわれの取り組みしだいだ。確実に廃炉作業を進めながら安全の実績を積み重ねたい」などと話していました。

中国に代わる水産物の輸出先確保など今も課題に

処理水の海への放出に反発した中国による日本産水産物の輸入停止措置は、半年たったいまも続いています。

去年9月以降、中国向けの水産物は、真珠やサンゴなど食用ではない品目の輸出にとどまり、去年1年間の中国向けの水産物の輸出額は、前の年より29%減っています。

特に中国向けの割合が大きかったホタテは前の年から213億円、率にして43%減っています。

東京電力は、風評被害による価格の下落や、海外の禁輸措置への対応にかかった費用などを賠償する方針で、今月20日までに、受け付けた賠償請求の書類はおよそ260件、すでに賠償金を支払ったのはおよそ40件であわせて42億円に上るということです。

日本政府は、中国に対し「科学的根拠に基づかない」として、規制の即時撤廃を求めていますが、輸出再開の見通しは立っていません。

影響が長期化する中、水産事業者にとっては、中国に代わる輸出先や新たな販売先の確保が課題となっていて、政府も海外からバイヤーを招くなど新しい市場の開拓を支援していくことにしています。

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