事故から13年を前にした福島第1原発の現状は? 構内で見た汚染水問題の実情【動画】(2024年2月19日『東京新聞』)

 東京電力福島第1原発の現場取材報告の後編では、事故発生当初から収束作業の大きな障害となってきた汚染水の問題を取り上げる。溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却水に、地下水や雨水が加わって水かさが増す。数々の対策を講じ、流入量は減ったものの止まってはいない。汚染水処理で発生する高濃度汚泥をどう貯蔵するか新たな難問も浮上している。(山川剛史)
 今回の取材では、数あるタンク群の中で、最も南側のエリアも含めて回った。放射性セシウムなどは除去されているため、放射線量は毎時1マイクロシーベルト前後と、タンクに囲まれた場所でも、タンクからの線量はほぼない様子だった。
処理水の貯蔵タンク

処理水の貯蔵タンク

多核種除去設備(ALPS)。23年に廃液を浴びた作業員が被ばくする事故が起きた

多核種除去設備(ALPS)。23年に廃液を浴びた作業員が被ばくする事故が起きた

海洋放出前に処理水の放射能濃度を測定するためのタンク

海洋放出前に処理水の放射能濃度を測定するためのタンク

◆汚染水処理で発生する汚泥 置き場なくなれば処理できず

 懸念されるのは、ストロンチウムなどを除去する多核種除去設備(ALPS)の前処理で発生する高濃度汚泥の貯蔵だ。専用容器に詰められ、コンクリート施設で貯蔵されるが、汚泥が発する放射線の影響で容器の寿命が短くなり、貯蔵施設の空き容量に不安が出てきている。
増設中の汚泥貯蔵施設

増設中の汚泥貯蔵施設

 東電は、汚泥を脱水して金属コンテナ貯蔵に切り替える計画だが、2022年に脱水施設が稼働しているはずだったが、まだ設計内容が決まっていない。仮に汚泥の貯蔵ができない状態になれば、汚染水処理そのものが続けられなくなってしまう。
 日々の処理に加え、タンク貯蔵中の7割近くは海洋放出の基準を満たしておらず、再びALPS処理することが不可欠であることも考えると、汚泥問題の解消は喫緊の課題だ。
汚泥脱水施設の予定地

汚泥脱水施設の予定地

 汚染水は減ったとはいえ日々90トン増え続けている。1号機の大型カバーが完成すれば雨水は減る。地下水は建屋地下の配管周りから流入しているとみられるが、5号機で試験中の建屋間の止水がうまくいくかどうか。最も地下水が多い3号機でも技術展開したいところだが、まだ何とも言えない段階だ。

◆処理水放出 海への影響は?

単位はベクレル/リットル。最小値はいずれも不検出で、最大値を記した。魚の値はいずれも放出開始前。東電の包括的海域モニタリング閲覧システムのデータを本紙が集約

単位はベクレル/リットル。最小値はいずれも不検出で、最大値を記した。魚の値はいずれも放出開始前。東電の包括的海域モニタリング閲覧システムのデータを本紙が集約

 東電はALPS処理後、基準を満たした水を海洋放出していく方針だが、30年の長期にわたるという。
 今のところ、放出されたトリチウムは海で拡散され、原発由来か判別しにくいレベルで、魚類にも明確な影響は見当たらない。
 ただし、長い放出の中で、設備、海への影響の両面で問題が起きない保証はない。コンクリート固化など他の方策や、トリチウムの分離技術の開発も進めるべきだ。

◆24年度は5万トン超放出 貯蔵タンクの解体にも着手


 24年度は7回に分け、5万4600トン(トリチウム量は約14兆ベクレル)を放出する計画(上の赤線のタンク群)。空のタンクの解体に着手。溶け落ちた核燃料(デブリ)関連の施設用地とするという。