処理水放出から半年 水産物輸出、リスク分散図れ(2024年2月25日『河北新報』-「社説」)

 東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出開始から、昨日で半年が経過した。放出に反発する中国が取った日本産水産物の輸入停止措置は継続されたまま、解決の糸口すら見えず、水産、加工業界に影響が及んでいる。政府は輸出先の切り替えに向けて引き続き、万全な対策を講じる必要がある。

 国際原子力機関IAEA)は2023年7月、「放出計画は国際的な安全基準に合致する。人や環境への影響は無視できるほど、ごくわずかだ」とする包括報告書を岸田文雄首相に提出した。政府は科学的根拠とIAEAの評価を基に全国漁業協同組合連合会(全漁連)を懐柔し、8月24日に放出開始に至った。

 中国による輸入停止の強硬策は、日本に突き付けた放出断念の要求を押し通すための経済的威圧に他ならない。

 中国は沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を機に10年、レアアース(希土類)の対日輸出を停滞させた。同年、中国の民主活動家へのノーベル平和賞授与を巡り、選考委員会があるノルウェーのサーモンを禁輸したこともある。

 新型コロナウイルスの発生源調査を求めたオーストラリアへの意趣返しで、石炭やワインの輸入を規制した行為は記憶に新しい。自国の経済力を背景に、貿易を政治利用してきたことは明白だ。

 農林水産省がまとめた23年の農林水産物・食品の国・地域別輸出額は中国がトップで2376億円だったが、前年比14・6%減と大幅に落ち込んだ。特に中国向けホタテは43・6%減の276億円で、輸入停止措置が主たる要因であることは疑う余地がない。

 中国の強硬策から得られた教訓は、各輸出品目の貿易相手が一定の国に集中するリスクを回避することである。

 政府は特定国・地域依存を分散するため、輸出先の転換や国内加工体制の強化を柱とする緊急支援事業を創設した。日本貿易振興機構ジェトロ)は生鮮ホタテ輸出先の多角化を狙い、加工施設があるベトナムやメキシコへの販路開拓を急いでいる。

 農林水産物・食品の輸出額を30年までに5兆円にする目標を掲げる政府は、ジェトロなどと共に販売力向上に注力する。南米ブラジルでイベントを開いたり、東南アジアの在京大使を東京・豊洲市場に招いたりし、日本産水産物のPRにも余念がない。

 中国に輸入停止措置の撤廃を粘り強く働きかけるのはもちろん、成長が期待される国々とのパイプを築き、取引実績を積み重ねていきたい。

 福島第1原発では今月、高温焼却炉建屋で汚染水処理装置の配管を洗浄中、放射性物質を含む大量の水が漏れ出す人為ミスがあった。日本の水産業界を守り、海外市場を切り開こうとする関係者の努力に水を差すことのないよう、東電は厳格かつ確実に業務を遂行しなければならない。