原発事故に故郷を奪われた18人の「痛み」 「戦後日本で繰り返されてきた横暴」への思いを189分の映画に(2024年3月1日『東京新聞』)

 東京電力福島第1原発事故による帰還困難区域に焦点を当て、避難者の証言を記録したドキュメンタリー映画「津島 ―福島は語る・第二章―」が2日から公開される。原発事故被災者の声を拾い続けてきた監督の土井敏邦さん(71)は「故郷を奪われる痛みに思いをはせてほしい」と呼びかける。(西田直晃)

◆今も多くの住民が戻らぬ浪江町・津島地区

津島地区の住民への思いを語る土井さん=横浜市神奈川区で

津島地区の住民への思いを語る土井さん=横浜市神奈川区

 2019年公開の「福島は語る」の続編。震災直後から福島入りして取材を重ねており、今作では、県東部の浪江町の山間部にある津島地区に密着。原発から北西に30キロ離れているが、事故直後に大量の放射性物質が降り注ぎ、地域のほとんどが帰還困難区域に指定されたまま、現在も多くの住民が戻れずにいる。
 津島の歴史書を編み始めた男性に心を打たれ、土井さんは「どうしても記録しなければ」と思い立った。貧しさにあえいだ開拓時代の記憶、綿々と受け継がれてきた伝統文化、今は亡き家族との思い出…。最初のインタビューから約5年を費やし、総勢18人の証言と四季の映像を前面に出し、事故から10年以上を経ても癒えない望郷の思いを映像に収めた。

◆経済合理性のために少数を切り捨てるのか

 土井さんは「反原発を声高に主張する人は登場しないが、語りの奥に問題が浮かび上がっている」と強調する。津島地区の住民は土地の原状回復などを求め、国と東電を相手取った裁判を続ける。「経済合理性だけを重視し、少数の人々を切り捨てるのか。原発事故に限らず、戦後日本で繰り返されてきた風景だ。横暴を許してはいけない」と作品に込めた思いを語る。
 「見る者にとって、撮る者にとって、ドキュメンタリーの登場人物は『鏡』」が持論の土井さん。若いころに故郷の佐賀県を飛び出したからこそ、津島地区に愛着を抱き続ける登場人物たちに大きく感情移入したという。「心の揺れを語る住民に自分自身を投影しながら、これまでの生き方を僕自身も省みた。豊かさとは何か、生きるとは何なのか。共感できる人がいるはずだ」と話す。

◆2日に新宿で封切り、全国で順次公開

 映画は2日、東京都新宿区の「K’s cinema」で封切りされた後、全国で順次公開される。16日には横浜市中区の「シネマ・ジャック&ベティ」で上映開始予定。189分。
 

ポスター画像

解説

福島第一原発事故により帰還困難区域に指定された福島県浪江町津島の元住民たちを取材したドキュメンタリー。

福島県東部の阿武隈山系の山々に囲まれた浪江町津島は、人口約1400人の平穏な村だった。しかし2011年3月11日の福島第一原発事故直後、原発から北西に30キロ離れた同村にも大量の放射性物質が降り注ぎ、帰還困難区域に指定されたまま、本作が製作された2023年現在も多くの住民が帰れずにいる。

ドキュメンタリー映画「福島は語る」の土井敏邦監督が、裁判記録「ふるさとを返せ 津島原発 原告意見陳述集」に記された住民たちの言葉に衝撃を受け、原告32名のもとを訪ね歩いてインタビューを敢行。貧しかった開拓時代の記憶、地域コミュニティと共にあった暮らし、受け継がれてきた伝統文化、今は亡き家族との思い出、さらに避難先で起こった子どもたちへの差別やいじめについてなど、総勢17名による証言の数々を、全9章、約3時間にわたって映し出す( 映画.com)。

2023年製作/187分/日本
劇場公開日:2024年3月2日

オフィシャルサイト

予告編