8月に予定される中国電力島根原発(松江市鹿島町)2号機の再稼働まで、半年となった。2012年の運転停止以来、12年ぶりの運転再開となる。
だが、このまま再稼働していいのだろうか。元日に起きた能登半島地震では、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)で外部電源を一部喪失するなどトラブルが相次いだ。運転停止中で放射性物質を放出するような重大事故には至らなかったが、家屋の倒壊や道路の寸断などで、住民の避難計画が「絵に描いた餅」であることが浮き彫りになった。
島根半島に立地する島根原発の周辺住民にとって人ごとではない。国と立地自治体は能登で起きたことを地元に当てはめ、万全の対策を取る必要がある。とりわけ避難計画の見直しは絶対だ。
原子力規制委員会が東京電力福島第1原発事故を受け、重大事故が起きた場合の住民避難や被曝(ひばく)防護策を原子力災害対策指針にまとめている。それによると放射性物質が放出された場合、5キロ圏内の住民はすぐに避難。5~30キロ圏内はいったん屋内退避し、放射線量を見極めながら移動する段階的避難を原則とする。
ところが能登半島地震では石川県が定める避難ルートの大半が通行止めになり、孤立集落が相次いだ。多くの住宅が倒れ、屋内退避もままならない状況に。原発事故が重なれば到底、住民を守れまい。
島根半島も、道路事情は似通う。島根原発2号機の再稼働に向けて国と自治体がまとめた避難計画では、住民がマイカーや専用バスで県内外の避難先へ逃げる手順を決めてはいるが、実効性を疑う声は住民の間でかねてあった。
地震などで避難ルートが断たれた場合は、道路管理者が復旧作業を速やかに進め、難しければ自衛隊などに支援を要請する運びだ。しかし、能登では現場に重機が入れない状況が何日も続いた。海路や空路も津波や放射線量を警戒しながらどれだけ柔軟に対応できるのか、見通せない。
島根原発は全国で唯一、県庁所在地にあり、30キロ圏内に約45万人が住む。混乱の中で住民が計画通り動けるとは思えない。寝たきりの高齢者や障害者ら1人で避難できない要支援者への対応も十分に示されているとは言い難い。
避難の受け入れ先となる広島や山口などの自治体の備えは万全だろうか。能登では、長期に及ぶ広域避難の困難さも露呈した。
規制委は、能登半島地震後、原子力災害対策指針を見直す議論を始めた。来年3月までに結果を得るという。ただ段階的避難の原則は変えず、屋内退避の期間や避難の判断基準などに論点はとどまる見通しだ。そんな問題意識で大丈夫なのか。
島根県や松江市は国の対応を待つことなく、地域防災計画の見直しに着手することが求められよう。避難計画の実効性が確認されるまで、再稼働をすべきではない。