原発事故の退避 機能しない現実明らかに(2024年2月28日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 原発事故で放射性物質が周辺地域に漏れた場合、すぐに逃げることができない入院患者や施設入所の高齢者といった「要配慮者」をどう支えるか。

 能登半島地震を機に、従来の対策の甘さが浮かんでいる。

 最大震度7を記録した石川県志賀町に立地する北陸電力志賀原発から30キロ圏にある21カ所の「放射線防護施設」のうち、6施設で損傷や異常が起きていたことが明らかになった。

 2011年の福島第1原発事故では、原発に近い双葉病院(大熊町)の患者ら44人が十分なケアを受けられないまま長時間の避難を強いられ、亡くなった。

 その反省を踏まえ、一時退避先として設置が進められた施設である。能登半島地震放射能漏れはなかったとされるが、もしもの際には、危険な状態のまま取り残されていたことになる。

 防護施設は全国に計約300カ所。病院や福祉施設、学校などの一部区画を充てている。放射性物質流入を防ぐため室内の気圧を上げており、フィルター付き陽圧化装置などを備える。3日分の水や食料、燃料も備蓄している。

 地震放射能漏れの複合災害が起きた場合も十分に機能を発揮するよう、耐震性を万全にしておく必要がある。所管の内閣府や避難計画の策定を担う自治体は、対策を早急に進めてほしい。

 異常のあった施設の一つ、志賀町の富来(とぎ)病院は15年に2階の介護施設部分を防護区画に改修していた。だが元日の地震で柱のコンクリートがはがれ鉄筋が露出、陽圧化装置も部品が脱落した。患者や施設入所者計72人を他の医療機関に移して対応したという。

 今回の地震ではそもそも、要配慮者だけでなく一般住民も避難が難しかった現実が浮かぶ。

 福島事故を踏まえて原子力規制委員会が策定した「原子力災害対策指針」は、原発から5キロ圏内は事故の兆候があった時点で即時避難、30キロ圏内は自宅などに屋内退避し、放射線量の上昇があれば避難する想定になっている。

 機能しないのは誰の目にも明らかだ。半島の各地で道路が寸断され、5キロ圏の人が車ですぐ逃げられる状況ではなかった。30キロ圏の人に不安を抱えたままとどまるよう求めること自体、現実味がないが、家屋が壊れていたら退避しようにもできない。

 住民目線で複合災害時の想定を見直していく必要がある。不安を残したままの原発の再稼働など到底認められない。