フィギュアスケートの宇野昌磨(26)=トヨタ自動車=が9日、自身の交流サイト(SNS)で現役引退を発表した。インスタグラムにはファンへの感謝とともに「スケートを21年間続ける事ができ、素晴らしい競技生活を送れた」とつづった(全文はページの下部に)。14日に会見を行い、引退を決めた心境や今後の活動について話す。
世界選手権で2連覇し、メダルを手に笑顔の宇野昌磨=2023年3月25日、さいたまスーパーアリーナで
2016年に4回転フリップを世界初の成功。冬季五輪では2018年平昌(ピョンチャン)で男子シングル銀、22年北京では個人と団体で2つの銅メダルを獲得した。世界選手権は22、23年に日本男子シングル史上初の2連覇を果たし、全日本選手権は6度優勝した。
◆「あの2人がいなくなって、難しくなった」
自他共に認める負けず嫌い。だが、2022年北京冬季五輪後の宇野は凪(な)いだ海のようだった。「競技者としての精神は、『あの2人』が現役を退いた時点で結構難しいものになっていた」。この2シーズンは勝利への渇望や負けて悔しさをにじませることも少なく、達観した表情を見せることが増えた。
「あの2人」とは北京の金メダリストのネーサン・チェン(米国)と、14年ソチ、18年平昌の両五輪を連覇した羽生結弦さん。宇野の前には常に2人の背中があった。「誰よりも難しい構成で、誰よりも安定していた」というライバル。その2人に「勝つためにはやるしかない」とジャンプの練習に注力した。
16年4月に世界初となる4回転フリップを成功させるなど、フリーで5本の4回転ジャンプに挑む構成を演じられるまでに成長した。だが北京後の世界選手権で頂点に立ったとき、2人の姿はもうなかった。
23〜24年シーズンが始まる前の気持ちを宇野はこう語っていた。「(今季のテーマを)自己満足って掲げるくらい、目標が見つかっていなかった」
モチベーションの維持に苦労する中、クワッドアクセル(4回転半)を跳ぶ新星イリア・マリニン(米国)が現れた。すべての4回転を高いレベルで跳び、宇野は「ジャンプの安定感は飛び抜けすぎている。今後、1強になることは間違いない」と舌を巻いた。
直接対決となった3月の世界選手権。「マリニン君にとって良い存在でいたい」と臨んだが4位。「心から勝ちたい気持ちにならなかった」。以前のような悔しさを感じることができなくなった。(蓮野亜耶)
◆宇野選手のインスタグラム全文
この度、現役選手を引退する決断を致しました。
今日まで競技者としての僕を応援してくださった皆様、支えてくださった皆様
本当にありがとうございました。
本当にありがとうございました。
5歳の時にスケートと出会い、21年間続ける事ができ、素晴らしい競技生活を
送れたことにとても感謝しております。
送れたことにとても感謝しております。
引き続き、宜しくお願いいたします。
冬季五輪2大会でメダルを獲得したフィギュアスケートの宇野昌磨(26)=トヨタ自動車=が9日、自身の交流サイト(SNS)で現役引退を発表した。名古屋市生まれで、2010年バンクーバー五輪銀メダルの浅田真央さんらを指導した山田満知子、樋口美穂子両コーチに師事。14日に会見を行う。
◆真央さんに声を掛けられて…「こんな選手になるとは」
宇野昌磨選手の現役引退発表を受け、報道陣の質問に答える山田満知子コーチ=9日、名古屋市中区の名古屋スポーツセンターで
宇野が故郷の名古屋市でスケートを始めた際に指導した山田満知子コーチ(80)は、「残念だが、新しい昌磨を見せてほしい」と今後の活躍を期待した。同市の名古屋スポーツセンターで報道陣の取材に応じた。
同センターに通っていた後のバンクーバー五輪銀メダリスト、浅田真央さんに声を掛けられ競技を始めた。幼少期は背が小さく泣き虫だったという。山田さんは「4回転をばんばん跳ぶ時代に(世界で)戦える選手になるとは思っていなかった」と打ち明ける。
何かをきっかけに大きな成長を遂げる選手もいるが「急激に変わったことはない。ずっと努力しながら上手になった」と山田コーチ。2018年平昌五輪後に、宇野がさらなる成長を求め、海外のコーチから指導を受けるようになったことについては「私は成功だったと思う」とした。
◆樋口コーチ「間違いなく特別な選手」
山田コーチのアシスタントとして、宇野が競技を始めてから2018〜19年シーズンまで指導した樋口美穂子コーチ(54)は「私にとって間違いなく特別な選手。お疲れさまという気持ちと、ありがとうという気持ち」と語った。
世界選手権を連覇するなど、世間的には順風満帆なスケート人生を送っているようにも見える宇野。だが、トップに立つことのつらさを感じることもあったといい、「以前、会ったときにスケートが楽しいかと聞いたこともあった」と振り返る。
プロスケーターとしての今後の活躍に期待し、「勝ち負けや点数、ルールを気にせず、のびのびと昌磨らしいスケートが見られたら」と語った。