虐待のサインを行政が把握しながら、幼い命を救うことができなかった。あまりにも痛ましい事件に、「なぜ」との思いが募る。
東京都台東区の自宅で4歳だった次女の細谷美輝(よしき)ちゃんに薬物を飲ませて殺害したとして、両親が逮捕された。美輝ちゃんは昨年3月に亡くなり、体内から抗精神病薬や不凍液に含まれる有害物質の成分が検出された。大量摂取すれば死に至る可能性がある。父親は容疑を否認し、母親は黙秘を続けているという。
この家族には、美輝ちゃんが生まれる前から児童相談所(児相)などが関わっていた。一連の対応のどこに問題があったのか、検証せねばならない。
以前に住んでいた千葉県流山市では、長男と長女への心理的虐待の通告が3回あった。子どもの面前で夫婦げんかをしたとされる。東京都へ転居後、千葉県の児相から情報提供を受けた都は、母親が精神的に不安定で「養育困難」と判断した。
都の児相が家庭訪問や電話連絡を続ける中、母親が自宅で衣類に火を付ける騒ぎを起こし、放火容疑で逮捕された。美輝ちゃんが誕生して約2カ月後のことだ。きょうだい3人は児相に一時保護された。
都の担当者らは、育児放棄と心理的虐待があったとみていたが、子どもらを家庭に戻した。美輝ちゃんはその後、約3年半に6カ所の保育施設を転々とした。亡くなる半年前からは、顔などに傷があると保育所から区に報告が5回あった。しかし、父親への聞き取りなどから虐待とは判断しなかった。
度重なる転園や顔の傷などの経緯を踏まえれば、行政のリスク判断に甘さがあったと言わざるを得ない。父親と連絡が取れていたことから、児相が親との関係を壊したくないと、踏み込んだ対応を避けた可能性はないだろうか。
母親は、自身が抗精神病薬を服用していることを児相に説明していたようだ。都の担当者は「父親は就労しながら家事が行き届かない部分があった」とも説明している。精神不安を抱える母親への支援は十分だったのか検証が欠かせない。両親が逮捕された長男と長女のケアには、特段の配慮が求められる。
青森県八戸市では、5歳の女児に自宅浴室で冷水を浴びせて放置し死亡させたとして、母親と交際相手が逮捕された。児相は虐待通告を受けていたが、1回の面接で家庭への指導を終えていたという。
児童虐待に関する相談の急増などで、全国的に児相は多忙を極める。子どもの安全確保を最優先するために、現場の態勢強化や関係機関との連携を深める努力が不可欠だ。