政治資金移転 嘆かわしい倫理の欠如(2024年2月27日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 後援会を利用し政治資金の使途を隠す悪質な手口が露見した。

 疑惑が浮上したのは自民党茂木敏充幹事長と棚橋泰文国家公安委員長。それぞれが代表の資金管理団体や政党支部が自身の後援会に資金を“寄付”し事実上、使い道を伏せていた。

 からくりはこうだ。資金管理団体や政党支部は、政治資金規正法上の「国会議員関係政治団体」に当たる。人件費を除く1万円超の支出の使途を申告する義務があり領収書の保管も求められる。

 一方の後援会は「その他の政治団体」に区分され、政治活動費の申告義務は5万円以上と緩い。両氏の後援会は活動費の大半を「その他の支出」にまとめていて、支払先も目的も分からない。

 資金管理団体と後援会の所在地や会計責任者は同じで、後援会収入のほぼ全額を資金管理団体などからの寄付が占める。国会議員関係政治団体として届け出るかどうかは後援会の判断による。あえて公開度の低い「その他」に据え置いてきたのだろう。

 同様に資金を移転させていた国会議員は複数いるという。茂木氏と棚橋氏の総額は際立って高く、2020~22年の使途不明金は茂木氏が9406万円、棚橋氏が4191万円に上った。

 「後援会は国会議員関係政治団体ではない。規正法にのっとり、収支を報告している」。茂木氏の事務所の釈明だ。

 自民が1989年にまとめた政治改革大綱は、政治不信の元凶の一つに〈政治家個々人の倫理性の欠如〉を挙げていた。裏金事件に揺れる党で、政治刷新を主導すべき幹事長の居直るような弁明にあぜんとさせられる。

 高級料理店での会合費、巨額の書籍代、数十万円の手土産代、百貨店での買い物代…。裏金事件の大きな焦点は、いまだ明らかでない使い道だ。私的流用があれば脱税の嫌疑がかかる。

 後援会に移した資金も含め、党内の政治とカネの闇を洗い出さなければ、抜本的な政治改革の議論へと結び付くはずもない。

 衆院政治倫理審査会を巡り、自民は出席議員を最小限に絞っている。野党が要請する公開審査にも応じようとしない。

 情けないほどの体たらくぶりと言うほかない。

 この際、規正法を、議員の行動を制限する意味の「規制法」に改称してはどうか。かけ声ばかりの自民が自浄努力を払えないなら、徹底的に法の網をかぶせることでしか事態の改善は望めない。