4歳児殺害事件 救える手だてなかったか(2024年2月20日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 虐待の末の死をまたも防げなかった。東京都台東区の自宅で4歳だった細谷美輝(よしき)ちゃんに薬物を飲ませ、殺害した疑いで両親が逮捕された。

 エンジン冷却水の不凍液に含まれる有害物質や抗精神病薬を摂取させ、殺害した殺人容疑である。父親(43)は否認し、母親(37)は黙秘しているという。父親の姉も不審死し、同じ有害物質が検出されている。事件の全容解明は捜査の結果を待つほかない。

 悔やみきれないのは、早くから児童相談所(児相)や区、保育所などが虐待の可能性があるとみて両親と接触もしていたのに、防げなかったことだ。

 次女の美輝ちゃんが生まれる前。家族が暮らしていた千葉県流山市で、夫婦げんかによる長男と長女への心理的虐待の通告が3回あったという。

 転居後、報告を受けた都の児相などは母親が精神的に不安定だと判断。家庭訪問や電話連絡を重ねた。美輝ちゃんが生まれてからも両親との面接を進めたが、まもなく母親がぼや騒ぎを起こし、きょうだいを一時保護した。

 都などは心理的虐待と育児放棄があると考えていた。美輝ちゃんは約3年半の間に6カ所も区内外の保育施設を転々とした。当時は問題にされなかったが、虐待の発覚を免れようとした可能性があると警察はみている。

 保育所は顔や腕に不審な傷があると区に5回報告した。父親は公園で転んだなどと回答。矛盾はないとしてそのままになった。

 その時々の判断は適切だったのか、もっと踏み込めなかったのか。関係した機関は検証し、課題を広く共有する必要がある。

 2022年度に児相が児童虐待の相談を受けて対応した件数は全国で22万件近くに上る。

 子どもの保護や親の指導に当たる児童福祉司の拡充など国は態勢強化の方針を示しているが、人材の奪い合いも起きているという。増え続ける相談、対応で現場の負担が重くなり過ぎていないか、注視しなければならない。

 母親は美輝ちゃんを「かわいくない」と語っていたという。夫婦関係や子育てを巡り、つらい、無理だと思ったとき、親にも避難や相談ができる場がもっとあったらどうだったか。閉じがちな家庭の支えのあり方も考えたい。

 自らが置かれた状況の意味も分からぬまま、声を上げられず、身を縮めている幼子が近くにいるかもしれない。大人が心して向き合わねばならない現実である。