ごみ集積所からも拾い集め…6.4トンため込んだ男性の言い分 全国5000件以上「ごみ屋敷」の解決法は?(2024年2月24日『東京新聞』)

 神奈川県横須賀市の「ごみ屋敷」に暮らす無職の男性(56)が近隣住民の植木鉢を壊したとして、先月末に横須賀簡裁から器物損壊罪で罰金10万円の略式命令を受けた。逮捕後の県警の調べには「置いた物が処分され、カッとなった」と供述しており、市にごみを強制撤去されたことへの不満がきっかけになったようだ。男性は6年前にも市から同様の措置を取られたが、状況は変わらず、近隣住民は苦しめられ続けてきた。解決には何が必要なのか。(米田怜央)

◆勾留から戻ってきた直後から再びごみを集め…

 今月上旬に現場を訪ねると、細い路地沿いの一軒家からあふれるごみ袋の山が現れた。止めてある車の中や玄関につながる通路を埋め尽くすだけではなく、敷地外の道にも散乱。ペットボトルや空き缶、落ち葉、靴などが透けて見えた。近くの70代男性は「もう10年くらいこの状態。夏には悪臭が広がる」と顔をしかめる。家主は勾留から戻ってきた直後の今月頭から再びごみを集めているという。
ごみ袋が敷地外まであふれている男性の住宅=横須賀市で

ごみ袋が敷地外まであふれている男性の住宅=横須賀市

 田浦署による先月11日の逮捕容疑は昨年11月22日、自宅近くの路地にあった植木鉢を蹴飛ばして壊したとされる。鉢の持ち主は取材に「ごみを置かせないためだった」と説明。事件が起きたのは、市が生活環境の保全を図るための条例に基づき、男性がため込んだごみを撤去する行政代執行を実施した翌日だった。

横須賀市が代執行「近隣の迷惑考えれば、せざるを得ない」

 市が男性のごみを強制的に撤去したのは、県内で初となった2018年に続いて2回目。前回は住民から苦情を受け、処分を促そうと100回近く自宅を訪問したが改善されなかったため、行政代執行に踏み切った。しかし、その後もごみがため込まれ、昨年11月21日に再び同様の対応を取った。
 分量は合わせて6.4トン。男性は近くの集積所のごみを拾い集めていたとみられるが、その理由を署で聞かれても「分からない」と話しているという。
 市の担当者は「根本的な解決は住民からごみをためる理由を聞き取り、支援につなげること。代執行は一時的な措置で人間関係も悪くなるが、近隣の迷惑を考えれば、せざるを得ない」と説明する。市にはごみの持ち去りを罰則付きで禁じる条例もあるが、男性の行動を追い切れず、適用しづらいのが実情だという。

精神科医と連携して解決にあたる「足立区モデル」

 ごみ屋敷は全国的な問題だ。環境省が市区町村を対象に実施した調査によると、18年度から22年9月までの間、その存在を把握したのは全体の38%となる661自治体。確認した事案が5224件だったのに対し、改善されたのは半数に満たない2588件だった。
 横須賀市と同じく、ごみ屋敷への対応を条例や要綱で定めている自治体は101。このうち、13年に条例を施行した東京都足立区は、担当部署が連携して医療につなげるなど福祉的な支援を重視する「足立区モデル」として注目を集める。担当者は「精神的なケアが必要となる原因者は少なくない」と指摘。23年度からは精神科医と契約し、職員が月3件ほど対応を相談する。条例施行から先月までに345件に対応し、304件を解決。強制的なごみの処分は一度もしていない。
 一方で、全国のごみ屋敷を調査研究した上智大の北村喜宣教授(行政法)は「支援は必要だが、福祉的対応には限界がある。解決困難事例には罰金などの条例の罰則を強化して抑止力を高める方策の検討も必要」と話した。