運転手残業規制/輸送費の適正化が必要だ(2024年4月29日『神戸新聞』-「社説」)

 トラック、バス、タクシーなどの運転手の残業規制が4月から強化された。働き方改革関連法に基づき、時間外労働の上限は年960時間となった。

 しかし、これは過労死ラインとされる月80時間と同水準だ。運転手の健康を守るには、不十分と言わざるを得ない。一方、先に規制強化が適用された一般労働者は、年720時間が上限となっている。

 慢性的な運転手不足に加え、規制により労働時間が短くなったことで、輸送能力が不足する「2024年問題」の影響が出ている。

 兵庫県内では、全但バス養父市)が4月から但馬地域の19路線を減便した。「通勤・通学客が多い平日はできるだけ便を維持するよう努めた」と説明する。神姫バス姫路市)は、高速バスの減便を余儀なくされている。

 不便さを感じる利用者は少なくないだろう。だが、残業規制は過労の末に命を落とした人を出してしまった反省が出発点だ。長時間労働を改めるのは当然である。自動車運転業を持続可能な姿に変えなければ、担い手不足は一層深刻化する。

 中でも流通網を支えるトラック運転手の労働環境の改善が急がれる。配送拠点で待機する「荷待ち」や荷物の積み降ろしなど走行に関係ない時間が長く、課題となっていた。

 政府は荷待ち時間などの削減計画の策定を荷主に義務付ける法改正案を今国会に提出し、26日に可決、成立した。運送業者に対し荷主の立場は強い。計画通りに実行しているかを監視する仕組みが求められる。

 運転手の待遇改善も欠かせない。荷主は、賃上げの原資となる運賃の適正化に積極的に応じるべきだ。

 厚生労働省の21年調査によると、大型トラック運転手の年間労働時間は全産業平均より2割長いものの、年間収入は6%少ない463万円だった。残業規制で収入減を心配する運転手は多い。事業者の大半を占める中小零細企業に、賃上げを波及させることが重要だ。

 物流業務の効率化も進めねばならない。政府は、複数の運転手がリレーのように運ぶ「中継輸送」や、鉄道や船に輸送を切り替える「モーダルシフト」の普及を目指す。デジタル技術の活用などでトラックの積載率を向上させたい。

 物流網の維持には、消費者の理解も鍵となる。顧客の都合に合わせた柔軟な再配達や「送料無料」、スーパーなどの店頭での欠品ゼロは、もはや当たり前ではなくなった。