教員給与増額案 残業時間を減らせるのか(2024年4月29日『新潟日報』-「社説」

 教員の長時間労働を是正し、担い手不足の解消につながる改革案なのか、甚だ疑わしい。

 中教審の特別部会は、教員確保に向けた処遇改善と働き方改革の素案を提示した。

 公立学校の教員に残業代の代わりに上乗せ支給する月額給与4%相当の「教職調整額」を、約50年ぶりに10%以上に引き上げることが柱となる。

 教職調整額の支給を定める教員給与特別措置法(給特法)は1972年の施行で、4%の算定根拠は残業が月8時間程度だった66年度の調査が基準になっている。

 大半の教員の残業が月45時間を超え、繁忙化が進んだ現在の実態に合っていないことは明白だ。

 問題なのは、「定額働かせ放題」の元凶ともされている給特法を維持し、抜本的改革に踏み込まなかったことだ。

 長時間労働の是正を、学校現場は最も期待している。

 管理職に勤務時間削減の機運が高まるとの理由で、給特法を廃止し、残業時間に応じて賃金が支払われる労働基準法の適用を訴える教育関係者もいる。

 しかし、素案は「教員の職務は、自主的な業務と指揮命令に基づく業務が一体で区別が困難」として、残業代はそぐわないとした。授業準備や教材研究などは、職務と自発的活動の切り分けが、困難だからという。

 民間企業では公私の区別が難しい仕事でも労働時間の把握に努めており、公立学校の教員だけできないというのは「欺瞞(ぎまん)だ」とする識者もいる。

 残業代を支払うと膨大な財政負担が生じるため、財源の制約も議論に影響を与えたとみられる。

 教員の担い手不足は深刻だ。精神疾患を理由に休職した公立学校教員は過去最多になり、各地で欠員が生じている。長時間労働が常態化し「ブラック職場」のイメージが定着している。

 2022年度に実施した公立小学校の教員採用試験の競争率は、2・3倍となり5年連続で過去最低だった。

 学習指導要領の内容拡充に伴う授業時間数の増加や、小学校英語の教科化、学習用端末の活用などで業務量は増えている。

 抜本的な業務削減に着手しなければならないことは明らかだ。

 素案には、小学5、6年で進めている教科担任制の3、4年への拡大や、学級担任への手当の加算も求めた。支援スタッフの拡充のほか、教育委員会ごとの在校時間の公表も必要とした。

 子どもの教育を充実させるために、ゆとりがある職場環境の整備を図ることは不可欠だ。

 文部科学省は、来年の通常国会に給特法の改正案を提出する方針という。教員志望者にとって魅力的な職場になるように、一層議論を重ねてもらいたい。