児童虐待死(2024年2月22日)

児童虐待死 幼い命なぜ救えなかった(2024年2月22日『新潟日報』-「社説」)

 小さな体で、どれほど苦しい思いをしただろうか。あまりにも痛ましい事件が続き、胸が詰まる。

 幼い命を救えなかったのはなぜなのか。事件の解明とともに、関係機関の対応の在り方についても検証してもらいたい。

 東京都台東区で昨年3月、当時4歳だった細谷美輝(よしき)ちゃんに、不凍液に含まれる有害物質「エチレングリコール」と抗精神病薬「オランザピン」を摂取させて殺害したとして、警視庁が今月、殺人容疑で両親を逮捕した。

 警視庁によると、美輝ちゃんは自宅リビングの床におむつ姿で倒れていた。上半身は裸で、長時間寝かせたまま放置されていたとみられている。

 遺体からエチレングリコールや多量のオランザピンの成分が検出された。死因は双方を摂取したことによる中毒死とみられる。

 青森県八戸市では先月、5歳だった宮本望愛(のの)ちゃんが浴室で水を浴びせられて放置され、低体温症で死亡した。青森県警が今月、傷害致死容疑で母親と、その交際相手の男を逮捕した。

 通報を受けて県警が到着した際の浴室の温度は10度以下だったという。望愛ちゃんの体には複数のあざがあり、日常的に虐待されていたとみられている。

 2人ともまだ幼く、反抗などできなかっただろう。自宅という閉ざされた空間で残酷な仕打ちがされたとすれば許せない。

 残念なのは、児童相談所(児相)が親子と接触していても、事件を未然に防げなかったことだ。

 美輝ちゃんの事件では、美輝ちゃんが生まれる前に一家が住んでいた千葉県流山市の児相から、転居先の台東区に、兄姉への心理的虐待の通告があったと情報が寄せられていた。

 都児童相談センターなどは、母親が精神的に不安定で「養育困難」と判断し、状況確認のための家庭訪問や電話連絡を重ねていた。きょうだい3人をセンターに一時保護したこともあった。

 望愛ちゃんについても、亡くなる約4カ月前と約半年前に、ネグレクト(育児放棄)と心理的虐待で八戸市の児相に通告があった。

 日常的虐待はないと判断し、児相が指導を終結したのは、亡くなるわずか1カ月ほど前だ。

 傷などがあっても、保護者が子どもに話を合わせるよう指示している可能性もあり、幼児への虐待を判断するのは難しい。

 たんこぶや傷について、児相に聞かれた美輝ちゃんは「公園で」と答え、「公園で転んだ」と話した父親と矛盾がなかった。

 望愛ちゃんも児相の聞き取りでたたかれたことがあるか聞かれ、「ない」と話したという。

 虐待は結論を急ぐと取り返しのつかない事態を招くことがある。関係機関は慎重に判断し、命を守るために力を尽くしてほしい。

 

相次ぐ児童虐待 児相の体制強化に本腰を(2024年2月22日『熊本日日新聞』-「社説」)
 家庭内の虐待によって幼い命が奪われる事件が後を絶たない。

 東京都台東区で4歳次女に抗精神病薬などを飲ませて殺害したとして、両親が逮捕された。昨年3月に死亡した次女の遺体からは、エンジン冷却水の凍結を防ぐ不凍液に含まれる有害な「エチレングリコール」も検出された。

 都児童相談センターなどは次女が生まれる前から、この一家で長男や長女に対するネグレクト(育児放棄)や心理的虐待があると認識し、養育環境を注視して支援していた。行政や警察、近隣住民などが虐待に気づきながら、なぜ最悪の事態を防げなかったのか。徹底した検証が求められる。

 一家は2016年に千葉県から台東区に転入。その前から管轄の児童相談所に虐待を通告されていた。都児童相談センターなどは、母親が精神的に不安定で「養育困難」と判断し、18年6月から9カ月間で家庭訪問8回、電話連絡を20回重ねた。次女誕生後の19年3月に母親が自宅で衣類に火を付けたとして逮捕され、子ども3人を一時保護。その後、養育環境が改善されたとして家庭に戻した。

 22年には、次女が通う保育所から顔などに傷やたんこぶがあるとの報告を5回も受けていたが、次女や父親への聞き取りで虐待によるものではないと判断した。過去の養育状況に照らし合わせても、なぜ行政として介入する判断に至らなかったのか疑問が残る。

 青森県八戸市では1月、5歳女児が浴室で冷水を浴びせられ死亡する事件が起き、傷害致死の疑いで母親と同居する交際相手の男が今月逮捕された。男は「しつけ」と称して女児に水を掛けて放置する行為を繰り返し、母親も黙認していたとみられる。

 この事件でも、八戸児童相談所が昨年7月と9月の2回、虐待通告を受けていた。しかし、女児や家族と1度面会しただけで、11月末には指導を終えている。県は第三者委員会を設置して児相の対応を検証するというが、どうすれば事件を未然に防げたのかについても踏み込んで検証し、つまびらかにしてほしい。

 相次ぐ児童虐待事件を受け、国は児相の立ち入り調査など権限を強化してきた。ただ、問題を抱える家庭への介入や、子どもを守るために親から引き離す一時保護は容易ではなく、支援は長期に及ぶことが多い。対応に当たる職員の心身の負担は相当なものだろう。豊富な経験や高度なスキルが求められるが、日常業務に追われ、数年ごとの異動もあるため、ベテラン職員の養成が十分にできない現状もあるという。

 22年度に全国の児相が児童虐待の相談を受けて対応した件数は、最多の21万9170件に上り、32年連続で増加した。熊本市熊本県の児相でも増加傾向にある。高まる社会のニーズに、児相の体制が追いついていないのではないか。痛ましい事件の芽を摘んでいくには、ベテラン職員の育成と増員に本腰を入れ、児相の体制を強化していくほかない。