災害弱者の関連死 見守り重ね課題の解消を(2024年2月25日『熊本日日新聞』-「社説」)

 2011年の東日本大震災と16年の熊本地震で災害関連死と認定された人のうち、発災時に障害者手帳を持っていた人の割合がいずれも2割超と高かったことが、共同通信の調査で明らかになった。

 避難生活の疲労や環境変化のストレスなどから体調が悪化して亡くなる関連死は、適切な支援があれば防げる。ただ、そのリスクは少なくとも2、3年続くとされている。能登半島地震から間もなく2カ月。障害者や高齢者などの災害弱者が疲労やストレスをため込んでいないか。見守りを注意深く重ね、抱えている課題を速やかに解消してほしい。熊本などから経験を伝えることも必要だ。

 共同通信の調査は、東日本大震災以降に起きた五つの「特定非常災害」で関連死認定のあった自治体を対象に実施された。その結果、障害者手帳保有者の割合は東日本大震災で21%、熊本地震は28%。障害者の割合を全人口の9%ほどとした国の推計と比べ、極めて高い。

 調査では、関連死認定した人が障害者手帳保有していたか回答しない自治体もあった。プライバシーに配慮した上で具体的な事例を積み重ねていけば、潜在化していた課題が見つかる可能性がある。今後は国が調査を実施し、結果を国民と共有するべきだ。

 災害弱者が安心して避難生活を送るための施設が福祉避難所だ。だが、受け入れる施設が壊れたり、職員が被災して出勤できなくなったりするケースも多い。熊本地震で被災した熊本市で、福祉避難所を開設できたのは想定の半数程度だった。能登半島の被災地でも開設が難航している。

 能登半島で支援活動をしている北陸学院大の田中純一教授(災害社会学)によると、多くの障害者や高齢者が一般の避難所で雑魚寝をしている。今後は福祉避難所が被災することも想定し、一般避難所のバリアフリー化や物資の備蓄を国の補助で進めるべきだ。

 周知不足のため福祉避難所が十分に機能しなかった教訓から、受け入れ対象を明確化した上で事前公表する自治体も増えている。熊本市は障害のある子どもと家族の福祉避難所として、市内の特別支援学校などを公表。京都市は妊産婦や新生児に特化した福祉避難所を公表している。

 災害弱者については、避難先を事前に決めておく「個別計画」の作成が自治体の努力義務になっている。しかし、達成の度合いは自治体間で大きな開きがあるようだ。災害弱者が迷わず避難し、安心して日々過ごせるよう、達成率の低い自治体は取り組みを急いでほしい。

 田中教授は福祉避難所の人手不足を軽減するため、災害時に職員を広域的に募り、被災地へ迅速に派遣できるような自治体間の協定締結も提案している。災害が起きるたびに「がんばろう○○」と被災地を鼓舞するスローガンを見かけるが、十分な災害対応は被災地だけではなし得ない、という認識も共有しておきたい。