農薬を極力控え、肥料を使わない果樹栽培を続けてきた
能登の農家が苦境に立っている。
能登半島地震の影響で、石川県
能登町の農地に亀裂が入り、同県
輪島市の加工場も被災した「陽菜実(ひなみ)園」の柳田尚利(たかとし)さん(51)。「
能登の強みは1次産業。今後も磨いていきたい」と話し、再建に向けて歯を食いしばっている。(
井上靖史)
地震でできた亀裂に頭を悩ませる柳田尚利さん=石川県
能登町で
◆加工場も加工の機械もダメージを受けた
「根がむき出しになって乾いてしまっている。今年どれだけ実を付けてくれるか不安はある」。
能登町合鹿の農園で、柳田さんが表情を曇らせた。
干し柿用の木200本とブルーベリーの木50本を植えた2.6ヘクタールの畑には100メートルほどにわたり、70センチほどの段差ができた。「通常なら作業車で行う手入れが遅れがちだ」と肩を落とす。
輪島市町野町真久の加工場も壁がはがれ、
干し柿を作るのに使う大型の乾燥機や皮むき機がゆがんだ。近くの自宅も「天井に穴が開いて空が見える」状態。多額の修繕費が見込まれる。
◆おいしいと言ってくれる人たちのために
柳田さんは
大阪府東大阪市出身。2012年、奥
能登の
農業法人の
インターンシップ(就業体験)に応募して農業を一から学び、17年に独立した。ここで出会った妻との間に長女(10)も授かった。「自分の子どもが安心して口に入れられる柿を作りたい」。そんな思いから、
有機肥料や化学肥料を使わない栽培を追い求めた。大きさでは劣っても糖度が高く、雑味が少ない柿を作ってきた自負がある。
元日の
地震発生時は奥
能登にはいなかったが、2次避難を余儀なくされた。「奥
能登を離れることも考えた」というが、自身が作る柿をおいしいと言ってくれる人たちに励まされ、踏みとどまることを決めた。「戻ると決めた以上、もっとおいしい物を作って
能登の魅力アップにつなげたい」と力を込めた。