自治体災害派遣/経験生かし息長い支援を(2024年2月23日『神戸新聞』-「社説」)

 能登半島地震では、全国の自治体から派遣された応援職員が被災市町の業務を支えている。被災者の暮らし再建を後押しする上でも欠かせない相互支援の仕組みは定着してきたが、受け入れ態勢の不備など課題も少なくない。中長期的な支援を見据える中で、現地の実情を速やかに把握し対応できるかが問われる。

 被災自治体の業務は、避難所運営や物資配布に始まり、罹災(りさい)証明書の発行や被災家屋の被害調査、廃棄物処理など多岐にわたる。

 能登地震では、熊本地震を受け2018年に始まった「応急対策職員派遣制度」に基づき、総務省が被害状況や人口規模などを踏まえ、全国知事会関西広域連合などと支援自治体の割り当てを調整した。


 被災側と派遣側の自治体をペアにする「対口(カウンターパート)支援」という枠組みだ。兵庫県内の自治体職員も被災地入りし、阪神・淡路大震災やその後の災害派遣の経験を生かした救援や復旧に力を注ぎ、行政機能の回復を後押ししている。

 現地はもともと自治体の規模が小さく、職員数も少ない。職員の多くは自身も被災者だ。阪神・淡路を経験した元神戸市職員らでつくる先遣調査チームによると、道路寸断や人員不足で家屋の被害把握が難航し、支援金の給付など公的支援を受ける際に必要な罹災証明書の発行が十分に進んでいないという。

 一部自治体では仮設住宅の入居が始まったが、避難生活の長期化も懸念される。被災者には経済的、精神的な負担が重くのしかかり、生活再建には息の長い支援体制が要る。

 災害派遣の改善点も浮き彫りになった。今回は派遣に向けた初動が遅れたとの指摘があるほか、応援職員の宿泊先の確保が困難を極めた。

 断水や停電の中、避難所などでの仮眠を余儀なくされた事例もみられたという。東日本大震災では、宝塚市岩手県大槌町に派遣した職員が自死する痛ましい出来事があった。慣れない土地での業務に疲弊する応援職員のメンタルケアも重要だ。

 また、国の派遣制度は1~2カ月程度の短期を念頭に置いており、長期にわたる応援派遣を確保できるかが課題となっている。特にインフラなどに精通する技術職員は全国的に不足しており、復旧・復興が足踏みする事態は避けねばならない。

 

 応援を受ける上で重要なのが「受援(じゅえん)計画」だ。必要な人数や依頼する業務を決めておく。応援部隊を想定して備えておけば、混乱は避けられるのではないか。まだ策定していない自治体は早急に進めてほしい。

 災害時の対応は一刻を争う。迅速で効果的な支援受け入れが住民の命を救うことを忘れてはならない。