宇野昌磨、引退はジャンプ一辺倒ではないフィギュアの魅力を追い求めるがゆえに…【語録】(2024年5月10日『東京新聞』)

 
 冬季五輪2大会で3つのメダルを獲得したフィギュアスケート宇野昌磨(26)=トヨタ自動車=が9日、自身の交流サイト(SNS)で現役引退を発表した。芸術性を追い求め、世界選手権は2022、23年に日本男子シングル史上初の2連覇を果たし、全日本選手権は6度優勝。14日に会見を行い、引退を決めた心境や今後の活動について話す。

◆「踊り出したくなるような」高橋大輔の演技に

 宇野がジュニア時代からあこがれたのは、2010年の世界選手権覇者、高橋大輔さん。「見ていると踊り出したくなるような」芸術性の高い演技を目指し、競技に打ち込んできた。
全日本フィギュア開会式で記念写真に納まる(左から)宇野昌磨、高橋大輔、羽生結弦=2019年12月18日、国立代々木競技場で

全日本フィギュア開会式で記念写真に納まる(左から)宇野昌磨高橋大輔羽生結弦=2019年12月18日、国立代々木競技場で

 ただ、最近は4回転ジャンプが成功するか否かで、メダルの色が決まる傾向が強まった。点数のさらなる上積みを目指すには、ジャンプの精度を高めるしかなかった。特に近年はライバルたちと「対等に戦うため」に、ジャンプに注力。それで世界選手権を連覇した。
 一方で割り切れない思いを抱えていた。「表現を頑張っても、競技結果に反映するかと言えば、必ずしもそうではない」。4回転ジャンプの重要性が増すほど、ステップなど表現力を磨く時間は削られていった。「ジャンプばかりになっていた」。昨年3月の世界選手権後、宇野は自身の演技をもう一度見返したいとは思えなくなっていると気づいた。
 だからなのか、23~24年シーズンはジャンプの成否にこだわらなくなった。表現力が試されるような静かなプログラムを演じた。重心が低く、氷に吸い付くようなスケーティング、伸びやかな腕のしなり。静かなリンクにジャンプも表現もとけこむような演技で魅了した。
最後の全日本となった2023年12月21日、ランビエールコーチ振付のショートプログラムを舞う宇野昌磨=長野市ビッグハットで

最後の全日本となった2023年12月21日、ランビエールコーチ振付のショートプログラムを舞う宇野昌磨長野市ビッグハット

 今の流れに一石を投じているかのよう。同じリンクで練習していた鍵山優真(オリエンタルバイオ・中京大)は、宇野の姿から「ジャンプだけでもいけない。(スピンや表現など)他も質よくやるのが大事」と教えられた。
 芸術性にこだわり、4回転フリップを世界で初めて成功させるなどジャンプも突き詰めた宇野。フィギュアスケートの魅力がジャンプだけではないことを最後まで示し続け、競技生活に別れを告げた。(蓮野亜耶)

◆ゴールは成長の先に…僕はもう、最善を尽くした【語録】

男子ジュニアで優勝を飾った宇野昌磨=2011年2月12日、甲府市の小瀬スポーツ公園アイスアリーナで

男子ジュニアで優勝を飾った宇野昌磨=2011年2月12日、甲府市小瀬スポーツ公園アイスアリーナで

 ▼2011年2月
 中学1年で出場した中部日本選手権のジュニア男子で優勝。当時身長138センチながら表現力豊かに滑りきった
 「ジャンプもスピードも全然足りない。もっと練習したい」
 ▼16年12月
 全日本選手権で初優勝
 「練習はうそをつかない」
宇野昌磨の代名詞ともいえるクリムキンイーグル。全日本フィギュア初制覇したフリーの演技=2016年12月24日、東和薬品ラクタブドームで

宇野昌磨の代名詞ともいえるクリムキンイーグル。全日本フィギュア初制覇したフリーの演技=2016年12月24日、東和薬品ラクタブドームで

 ▼18年2月
 初の五輪となった平昌大会で銀メダル
 「五輪に特別なものは感じなかった。1位になりたいけど、なりたいと思うだけではだめ」
 ▼18年12月
 全日本選手権で、足首を負傷しながら3連覇。コーチに棄権を勧められるも出場の意志を曲げず
 「これが僕の生き方です」
 ▼19年3月
 「初めて結果を求めて試合に臨む」と語った世界選手権で4位になり、涙ぐみながら
 「1位になりたいと思っていた自分が恥ずかしい。本当に自分は弱い。絶対に同じ演技はしたくない」
 ▼22年2月
 コーチ不在の期間や自身の不調を乗り越え、北京五輪で2大会連続の表彰台となる銅メダル
 「4年前の銀メダルより、銅メダルの方がいろんな感情も相まってうれしい」
北京五輪男子シングル 銀メダルを獲得した鍵山優真(右)と銅の宇野昌磨=2022年2月10日

北京五輪男子シングル 銀メダルを獲得した鍵山優真(右)と銅の宇野昌磨=2022年2月10日

 同五輪での鍵山優真の銀メダル獲得について
 「優真君がいる限り、まだまだモチベーションを持って続けていける。いつまでも『尊敬している存在』と言われるような選手でいたい」
 ▼22年3月
 6度目の出場となった世界選手権で、悲願の初優勝
 「ゴールはもっと成長した先にあると思う」
全日本フィギュア男子シングル 観客の声援に応える(手前から)優勝した羽生結弦、2位の宇野昌磨、3位の鍵山優真=2021年12月26日、さいたまスーパーアリーナで

全日本フィギュア男子シングル 観客の声援に応える(手前から)優勝した羽生結弦、2位の宇野昌磨、3位の鍵山優真=2021年12月26日、さいたまスーパーアリーナ

 ▼22年7月
 平昌、北京両五輪にともに出場した羽生結弦さんの競技からの引退表明を受け
 「最前線を何年も走り続ける姿勢は誰にもまねできないし、背中を追う僕にとって大きな道しるべだった」
 ▼24年3月
 3連覇を目指した世界選手権で、ショートプログラム(SP)首位ながらフリーで精彩を欠き4位
 「僕はもう最善を尽くした。みんなが切磋琢磨(せっさたくま)しながら頑張ってほしい」