◆「踊り出したくなるような」高橋大輔の演技に
宇野がジュニア時代からあこがれたのは、2010年の世界選手権覇者、高橋大輔さん。「見ていると踊り出したくなるような」芸術性の高い演技を目指し、競技に打ち込んできた。
ただ、最近は4回転ジャンプが成功するか否かで、メダルの色が決まる傾向が強まった。点数のさらなる上積みを目指すには、ジャンプの精度を高めるしかなかった。特に近年はライバルたちと「対等に戦うため」に、ジャンプに注力。それで世界選手権を連覇した。
一方で割り切れない思いを抱えていた。「表現を頑張っても、競技結果に反映するかと言えば、必ずしもそうではない」。4回転ジャンプの重要性が増すほど、ステップなど表現力を磨く時間は削られていった。「ジャンプばかりになっていた」。昨年3月の世界選手権後、宇野は自身の演技をもう一度見返したいとは思えなくなっていると気づいた。
だからなのか、23~24年シーズンはジャンプの成否にこだわらなくなった。表現力が試されるような静かなプログラムを演じた。重心が低く、氷に吸い付くようなスケーティング、伸びやかな腕のしなり。静かなリンクにジャンプも表現もとけこむような演技で魅了した。
今の流れに一石を投じているかのよう。同じリンクで練習していた鍵山優真(オリエンタルバイオ・中京大)は、宇野の姿から「ジャンプだけでもいけない。(スピンや表現など)他も質よくやるのが大事」と教えられた。
芸術性にこだわり、4回転フリップを世界で初めて成功させるなどジャンプも突き詰めた宇野。フィギュアスケートの魅力がジャンプだけではないことを最後まで示し続け、競技生活に別れを告げた。(蓮野亜耶)
◆ゴールは成長の先に…僕はもう、最善を尽くした【語録】
▼2011年2月
中学1年で出場した中部日本選手権のジュニア男子で優勝。当時身長138センチながら表現力豊かに滑りきった
「ジャンプもスピードも全然足りない。もっと練習したい」
中学1年で出場した中部日本選手権のジュニア男子で優勝。当時身長138センチながら表現力豊かに滑りきった
「ジャンプもスピードも全然足りない。もっと練習したい」
▼18年2月
初の五輪となった平昌大会で銀メダル
「五輪に特別なものは感じなかった。1位になりたいけど、なりたいと思うだけではだめ」
初の五輪となった平昌大会で銀メダル
「五輪に特別なものは感じなかった。1位になりたいけど、なりたいと思うだけではだめ」
▼19年3月
「初めて結果を求めて試合に臨む」と語った世界選手権で4位になり、涙ぐみながら
「1位になりたいと思っていた自分が恥ずかしい。本当に自分は弱い。絶対に同じ演技はしたくない」
「初めて結果を求めて試合に臨む」と語った世界選手権で4位になり、涙ぐみながら
「1位になりたいと思っていた自分が恥ずかしい。本当に自分は弱い。絶対に同じ演技はしたくない」
同五輪での鍵山優真の銀メダル獲得について
「優真君がいる限り、まだまだモチベーションを持って続けていける。いつまでも『尊敬している存在』と言われるような選手でいたい」
「優真君がいる限り、まだまだモチベーションを持って続けていける。いつまでも『尊敬している存在』と言われるような選手でいたい」
▼22年3月
6度目の出場となった世界選手権で、悲願の初優勝
「ゴールはもっと成長した先にあると思う」
6度目の出場となった世界選手権で、悲願の初優勝
「ゴールはもっと成長した先にあると思う」
全日本フィギュア男子シングル 観客の声援に応える(手前から)優勝した羽生結弦、2位の宇野昌磨、3位の鍵山優真=2021年12月26日、さいたまスーパーアリーナで