命守る福祉避難所 広域、多様化の備えが必要(2024年2月20日『福井新聞』-「論説」)

 能登半島地震は高齢化が進む地域を直撃し、過去の災害で繰り返し指摘された高齢者や障害のある人ら要配慮者避難の課題が今回もあらわになった。命を守る福祉避難所の開設が進まず、一般の避難所や被災した自宅の厳しい状況で生活を余儀なくされた。長期化すれば災害関連死につながる恐れもあり、福井県内の体制も点検し広域化、多様化で備える必要がある。

 特に被害が大きかった石川県珠洲市の高齢化率は同県の統計で51・7%(2020年時点)。輪島市も46・3%で全国平均の28・7%を大きく上回る。福井県内でも、22年時点で池田町の44・90%をはじめ、大野市南越前町38・90%、勝山市38・60%など14市町で30%を超えている。

 福祉避難所の必要性が高まる一方、珠洲市輪島市など石川県内7市町では今回、発生後約3週間の時点で開設が想定の2割にとどまった。指定施設の損壊や停電、断水の長期化に加え、職員の被災などによる人手不足が主な要因という。16年の熊本地震でも、熊本市内の福祉避難所の開設が想定の半数程度だった経緯がある。

 福井県地域福祉課によると、県内では今年1月時点で社会福祉施設を中心に17市町の計233施設が福祉避難所に指定されているのに加え、市町と協定を結び災害時にその役割を担う施設も60ある。机上の体制は整っているが、想定通り機能しない状況を考慮しなければならない。

 能登半島地震の発生直後から被災地に入っている日本災害看護学会副理事長の酒井明子・福井大名誉教授は、本紙の取材に「平時から、福祉施設だけでなく、バリアフリー化されたホテルなどと契約を結んでおくべきだ」と提言している。

 県と県旅館ホテル生活衛生同業組合は16年に、大規模災害時に高齢者や障害のある人、乳幼児連れの保護者らを優先的に受け入れ、宿泊や入浴、食事などを提供する協定を締結した。実際に活用する場合は、施設内の段差解消や車いす、手すりの設置などバリアフリー化が前提となる。改修に対する助成だけでなく、避難者を支える人員確保も大きな課題だ。

 大規模災害時に、福祉避難所をはじめ住民を守るための課題を単一の市町で解決するのは難しい。県内で被害が比較的軽微な地域や県外自治体を含め、広域で対応する枠組みを整える必要がある。その際に、原子力災害を念頭に培った広域避難のノウハウや自治体間のつながりを生かすこともできるはずだ。