京都大学が「政財界の論理」に支配される危機感 「運営方針会議」のメンバー構成に教職員たちが異議(2024年10月18日『東京新聞』)

 
 昨年の法改正で大規模な国立大に設置が義務付けられた「運営方針会議」を巡り、京大職員組合が17日、同会議の委員の構成案などに異議を唱える声明を発表した。学外委員の半数以上を財界人が占めることなどから、記者会見したメンバーは「大学の重要な意思決定をあたかも政府と財界に委ねるもの」と批判した。(宮畑譲)

◆「運営方針会議」設置を義務付け

 運営方針会議は、昨年12月の改正国立大学法人法の成立で、収入・支出や学生数が多い国立大に設置が義務付けられた。東北大、東大、東海国立大学機構(岐阜大と名古屋大)、京大、大阪大の5法人が対象で、法律の施行は今年10月1日となっていた。
 委員の任命には、文部科学相の承認が必要となるため、各地の大学教員らから「政府の介入が強まる」との声が上がり、改正法に反対する団体の呼びかけに4万以上の署名が集まった。
 京大では先月10日の部局長会議で、運営方針会議の委員案などが提示された。

◆委員に現役教授が入っていない

 委員案では、計11人の委員は6人が学外、5人が学内。学外委員のうち4人は財界人で占められた。学内委員のうち学長を除いた4人は大学の理事で、そのうち1人は文科省からの出向者となっていた。
会見する京大職組のメンバー=ビデオ会議システム「Zoom」の画面から

会見する京大職組のメンバー=ビデオ会議システム「Zoom」の画面から

 学外委員案では、NTT社長などを歴任し、現在経団連副会長を務める澤田純氏や、三菱UFJフィナンシャル・グループ社長などを経て、現在は三菱重工社外取締役の平野信行氏などが挙がっていた。
 職組中央執行委員の駒込武教授(教育史)は「運営方針会議は学長選挙も左右するが、学内委員に現役教授が入っていない。理事といっても学生と接しているわけではない。あまりにも偏っている」と批判する。

◆国の財政支援を得るために必須

 さらに職組は、大学側が「国際卓越研究大(卓越大)」の認定を申請した場合、運営方針会議の権限が強まることを問題視する。卓越大は政府が基金から出た運用益で財政支援する仕組みで、東北大が昨年、認定候補第1号に選ばれた。
 今年3月、内閣府が開いた有識者議員懇談会で、卓越大に求められるガバナンス体制について話し合われた。そこで配布された資料には、「学長の決定に先立ち、学長が主体的に運営方針会議に対し、体制強化計画に関する議決を求めること」を認定要件とすることが示された。
 つまり、国からの財政支援を得られる卓越大を目指す場合、大学運営に運営方針会議の議決が必要となる。職組は「会議が大学の統治体制を自由に左右できてしまう。卓越大と結び付くと、学長を超えた権限主体に転化する」と危惧する。
 「政府や与党、財界の意向に『主体的』に従属してしまったならば、教職員の労働環境を今後さらに悪化させ、学生の福利厚生をさらに切り詰め、市民社会に対する門戸をさらに固く閉ざすことになる」。声明でこう非難した職組は、学外・学内委員を同数とし、経団連など財界の現職役員は含めないことや、卓越大への申請を断念することなどを求めている。

◆「大学の自治、研究を凍えさせてしまう」

 職組中央執行委員長細見和之教授(ドイツ思想)は「このままでは政府・財界が一方的に大学を支配し、大学の自治、研究を凍えさせてしまう。どうにかして阻止していきたい」と語気を強めた。
 副中央執行委員長の大河内泰樹教授(哲学)は、この問題は大学だけでなく、社会全体に通じると強調する。
 「今、日本全体が経済の論理に支配されつつある。社会が正しい方向に向かっているか、政策が科学的な知見に基づいているか。自由な議論の場が確保されているからできる。その機能は奪われつつある」
 

2024年10月17日

大学を政府と財界の「植民地」にしてはならない
――「運営方針会議」に対する京大職組の声明――

京都大学職員組合中央執行委員会

 2023年12月13日、国立大学法人法の「改正」により、東京大学京都大学など5国立大学法人が「特定国立大学法人」に指定され、「運営方針会議」の設置が義務づけられることになりました。従来、国際卓越研究大学に応募して採択された場合に義務づけられていた合議体の設置が、採択・不採択にかかわらず、京都大学に義務づけられたことになります。その合議体の発足は2024年10月1日とされていました。
 運営方針会議の委員は11名、そのうち学外者が6名を占めるということ以外、具体的な議論が私たち組合員はじめ大学の構成員にいっさい届くことがない状態が続いていました。6月13日の団体交渉では「国際卓越研究大学への応募にあたっては、応募の意思決定を行う前に教職員が自由に意見を述べることができる形態で説明会を実施すること」を要求しましたが、説明会を開催するつもりはないと拒絶されました。ところが、今年9月10日付の部局長会議において、「国立大学法人京都大学運営方針会議について(案)」という資料が降ってわいたように提示されることになりました。しかし、この「案」にはいくつもの点において、組合として深く憂慮すべきものがあり、ここに強い反対意志をこめた京大職組の声明を発表します。
 まず、この「案」の開示にいたるまで、具体的な委員の人選に関して、私たち組合員を含め、大学の大半の構成員はいっさい蚊帳の外に置かれてきました。運営方針会議は大学に対してきわめて大きな権限を持ち得る合議体です。運営方針会議の委員案を確定するうえで、構成員にその選定プロセス、選定理由がいっさい提示されなかったことに、組合として強く抗議します。
 つぎに、現時点で提示されている6名の学外委員のうち4名が財界人で占められており、そのなかに経団連の現副会長、元副会長が含まれていることについて疑念を感じざるをえません。運営方針会議の委員の就任には文部科学大臣の承認を必要としていますが、これは京都大学の重要な意思決定をあたかも政府と財界に委ねるものです。
 また、学内委員として現理事4名の名前があげられていますが、とても京都大学構成員の多様性を体現しているとは言えません。学内委員には本来、教員、職員、学生の代表が含められるべきと考えます。それはたとえばUCLAの学長(Chancellor)選考委員会で実現されていることでもあります。なお、今回の「案」では文部科学省からの「出向」という形で理事職に就いている理事も学内委員に含まれていますが、文科省からの出向理事はむしろ学外委員に分類されてしかるべき委員候補と言わねばなりません。
 委員構成案にもまして大きな問題は、国立大学法人法に定める以上の、強大な権限が運営方針会議に与えられようとしていることです。9月10日付の部局長会議資料に含まれた参考資料「国立大学法人法、国際卓越の認定要件等」にはつぎの文章が記されています。

 改正国立大学法人法では、運営方針会議の決議により決定できる事項は法定の運営方針事項に限定されており、体制強化計画を含め運営方針事項以外は学長が決定することになる。ただし、法人の大きな運営方針の継続性・安定性を確保するという運営方針会議の設置趣旨を踏まえれば、学長の決定に先立ち、学長が主体的に運営方針会議に対し、体制強化計画に関する議決を求めることは可能であり、国際卓越研究大学の認定要件としてこれを求めることとする。

 この文章は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議(2024年3月7日)に配布された「国際卓越研究大学に求められるガバナンスの方向性について」と題する文書に記されていた但し書きです。一読して意味の取りにくい悪文ですが、「体制強化計画」など国立大学法人法(第二十一条の五第一項)で「運営方針事項」として規定していない事項についても、運営方針会議の議決を求めるねらいをあらわしたものです。このように法律の範囲を逸脱したねらいを正当化するために、第一に学長が「主体的」に運営方針会議の議決を求めることを「可能」とし、第二に国際卓越研究大学としての認定を求める場合には「これを求めることとする」、すなわち運営方針会議の議決を必須としています。学長が国際卓越研究大学に申請しないと決断した場合には学長の「主体性」が最低限守れることになりますが、国際卓越研究大学としての認定を申請した場合には、どのようなことであれ「認定要件」にかかわるとして、運営方針会議が大学の統治体制を自由に左右できてしまうようになります。
 国立大学法人法の「改正」をへても「限定」されているはずの運営方針会議の権限が、国際卓越研究大学と結びついたとたん、学長をも超えた権限主体へと転化するのです。しかも、主体的に命令に服すという形で、ここにおいては「主体的」という言葉がまったく蹂躙されています。京都大学が政府与党や財界の意向に「主体的」に従属してしまったならば、教職員の労働環境を今後さらに悪化させ、学生の福利厚をさらに切り詰め、市民社会に対する門戸をさらに固く閉ざすことになるであろうと考えざるをえません。
 以上の諸点に鑑みて、私たちは京都大学執行部に対して以下のことを強く求めます。

一、 運営方針会議は学外委員・学内委員同数とすること。経団連など財界を代表する団体の現職役員は含めないこと。学内委員には少なくとも1名以上の過半数代表を含めること。また、各学部自治会、院生協議会と協議して学生代表・院生代表の選出方法を定めて、少なくとも1名以上を学内委員に含めること。
二、 国際卓越研究大学への申請を断念すること。