ジャニーズ性被害 メディアは不断の検証を(2024年10月21日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 旧ジャニーズ事務所(SMILE―U.、スマイルアップ)の性加害問題で、旧事務所からマネジメントなどを引き継いだ新会社の所属タレントの新たな起用を、NHKが再開する。
 稲葉延雄会長が定例記者会見で明らかにした。「被害者への補償と再発防止の取り組みに加え、経営分離も着実に進んでいることが確認できた」と述べた。これで主要テレビ局の全てで新規起用が行われることになる。
 旧事務所が創業者の故ジャニー喜多川氏による性加害を認めて謝罪してから1年余になる。被害者の補償を行うスマイル社の藤島ジュリー景子代表取締役は、関連会社4社の会長職を退任した。
 同社によると、今月15日時点で被害者救済委員会に計1000人が被害を申告し、うち510人と補償内容で合意。同社は先月末、救済委の報告書を発表し、「救済手続きを通じて、被害の全容が明らかになっている」とした。
 本当にそうだろうか。今月上旬、3人の被害者が会見した。性被害を名乗り出ることができない人も潜在的に多いとして「全容解明にはほど遠い」と訴えた。スマイル社の説明は不十分として、定期的な記者会見を求めている。
 救済委の活動の主眼は金銭補償にある。被害者の心身のケアと人権回復はなおざりにされていないか。スマイル社としては、これまで一度も会見していない。
 喜多川氏は絶対的な権力関係の下、未成年への性加害を繰り返した。被害者は申告だけでも千人に上る。極めて悪質である。
 性加害が長年継続した要因には「マスメディアの沈黙」がある。
 1999年から告発キャンペーンを展開した「週刊文春」元編集長の新谷学氏が、マスコミ倫理懇談会全国大会の対談で指摘している。芸能マスコミの沈黙は、人気タレントの多い「ジャニーズ利権」を守りたいから。新聞が沈黙したのは「しょせん芸能スキャンダル」と捉え、未成年の人権問題の視点が欠けていたからでは―。「メディアがきちっと報じていれば、被害を止められたはずだ」
 テレビ各局はなし崩し的にタレントの起用を広げてきた。NHKの判断も紅白歌合戦から逆算したと見られても仕方ない。そこに自省と、被害者の声に真摯(しんし)に応える姿勢はあるのか。新聞もこの問題を巡る報道は徐々に減っている。
 本紙も含めてメディアは、検証と再発防止に取り組み続けなくてはならない。被害者の救済を見届ける責務がある。