◆水質回復、浅瀬ができた…
「シラウオの『再出現』は、東京湾の環境が再生してきている指標となる。下水道が普及して水質が回復したことに加え、2019年10月の台風19号による増水で、多摩川河口に卵を産める砂地の干潟や浅瀬ができたことが大きい」。PTの風呂田(ふろた)利夫・東邦大名誉教授(海洋生物生態学)はこう指摘する。
川崎市川崎区殿町から大田区の羽田空港周辺に架かる「多摩川スカイブリッジ」(2022年開通、長さ約675メートル)の建設工事に伴い、市が多摩川河口で地引き網を使うなどして環境調査を実施。シラウオの成魚は2021年2月に5匹、2022年2~3月に3匹見つかったほか、2022年10月には77匹が採集された。
◆台風で千葉から?利根川や江戸川から? 三つの説
一方、卵はPTが河口の砂地で2022年に223個、2023年に98個採集した。研究者らは科学的な検討を経て学術雑誌に論文を発表し、今回の公表に踏み切った。
◆「人為的な放流、否定できない」
PTは、採集されたシラウオのうち、2022年の成魚2匹と2023年の卵17個のDNAを分析した。
小川原湖、印旛沼、霞ケ浦(茨城県)などで採集されたシラウオのDNAと比較したが、どこから来たのかは特定できなかった。風呂田さんは「遺伝的に近い個体が多かった印旛沼の可能性が高いものの、人為的な放流の可能性も否定できない。これ以上の放流は遺伝的な混乱も起こるので、やめていただきたい」と話す。
シラウオ サケやアユの仲間のシラウオ科の細長い魚で、体長7〜8センチほど。淡水と海水が混じる汽水域に生息し、寿命は満1年。徳川家康の好物とされ、江戸時代に将軍に献上された。シラウオ漁は、歌舞伎に隅田川の初春の風物詩として登場し、浮世絵には隅田川やその河口の佃島沖の風景が描かれた。
1876(明治9)年には東京府(当時)の金額ベースの漁獲統計で芝エビ、アサリに次ぐ3位だった。東京湾の「江戸前」と呼ばれた水域では、昭和初期に年間50トン前後漁獲された。「東京都レッドデータブック(本土部)2023」は「1970年ごろに絶滅したと考えられる」と記述する。
◆文・増井のぞみ/写真・七森祐也、増井のぞみ
◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。
【関連記事】青森で130人が謎の皮膚病変…シラウオに寄生、原因は体長2ミリの「顎口虫」か
【関連記事】ハゼ、復活の底力 東京湾開発、温暖化… 「江戸前の魚」今は昔
【関連記事】東京新聞水辺プロジェクト「水辺のいきものに学ぶ」「ハゼ釣りに挑戦」
【関連記事】ハゼ、復活の底力 東京湾開発、温暖化… 「江戸前の魚」今は昔
【関連記事】東京新聞水辺プロジェクト「水辺のいきものに学ぶ」「ハゼ釣りに挑戦」