漆を均等に乾燥させるため、一定時間で天地が入れ替わる「回転風呂」=石川県輪島市河井町で
◆塗った漆を乾かす「回転風呂」が破損
自宅兼作業場では、塗った漆を乾かす「回転風呂」と呼ばれる約2メートル四方の室を45年前から使ってきたが、地震で壁の一部が抜けるなど破損。長年使ってきた漆を入れる茶わんも棚から落ちて割れた。壁は崩れ、窓も割れ、外が見えた。もし雨にぬれれば材料の木が傷み、機械も故障する。とっさに家にあったブルーシートやベニヤ板を使い、雨が入らないように応急処置を施した。
◆「手を動かして初めて感覚が戻る」
マイカーで車中泊をしながら、しばらくは近所で開かれていた物資の配給を手伝った。その間も作業場を片付け、回転風呂の修理が済んだ3月中旬に製造を再開。27歳から40年以上職人として働いてきた小山さんは「(再開した当初は)ぎこちなかったね。こんなに間が空いたことなかったから」と苦笑いする。まだ仕事を再開する見通しが立たない職人を思いやり、「職人は手を動かして初めて感覚が戻ってくる。これまで通りに戻すのは大変だろう」と話した。
小山さん自身の仕事量も地震前と比べて大きく減った。「20分の1とか30分の1とか」。木地を扱う市内の店が被災し、地震前に仕入れていた材料しかなかったためだ。5月中旬になって、ようやく新たな木地を仕入れることができた。
小山さんによると、地震前に20軒近くあった箸店のうち製造を再開できているのは2、3軒ほど。「やれる人が輪島塗の産業を残していかないと」と、はけを握る手に力を込めた。