輪島塗のカップとペン、バイデン大統領夫妻への贈り物に 金の蒔絵で「Joe」と「Jill」 被災した職人たちの技術の結晶(2024年4月11日『東京新聞』)

 
 岸田文雄首相は9日午後(日本時間10日午前)、米ワシントンのホワイトハウスを妻裕子(ゆうこ)さんと訪れ、バイデン大統領に輪島塗のコーヒーカップとボールペンを贈った。大統領夫妻に贈られた輪島塗は、被災した職人たちが技術を注ぎ、完成させた。職人たちは「贈答を機に、たくさんの人に能登半島や輪島塗に興味を持ってもらいたい」と期待している。(谷口大河、西村理紗)
田谷漆器店提供

田谷漆器店提供

 岸田首相が2月24日に石川県輪島市で職人たちと意見交換した際には制作の依頼がなかったが、3月初めに国側から田谷漆器店(輪島市)にコーヒーカップとボールペンの注文があった。代表の田谷昂大(たかひろ)さん(32)は「日本の首相から米大統領に手渡されることで、能登半島に関心を持ってもらえるはず」と喜び、周囲の職人たちに協力を依頼。地震の被害を免れた制作途中の商品を活用して作った。

◆1文字ずつに緊張感「魅力を感じてほしい」

 コーヒーカップは、黒と青のグラデーションが特徴。側面には夫妻のファーストネーム「Joe」と「Jill」が金の蒔絵(まきえ)でつづられている。制作を手がけた蒔絵師の大森晴香さん(31)は地震で工房が損傷し、得意先も被災して仕事が減った。その中で引き受けた「責任重大」と振り返る仕事。漆で書いた文字に金粉を蒔(ま)き、漆を塗り込んだ後、研磨した。「緊張しながら、1文字ずつきれいに見やすいように入れた。夫妻に輪島塗の魅力を感じてほしい」と願う。
 漆のつやを出す「呂色(ろいろ)」を担当したのは、呂色師の丸井聡さん(44)。計4日間かけ、漆をすり込むように塗り、光沢が出るまで研磨材や手で磨いた。「機会に恵まれた。大事に使ってほしい」と話した。
田谷漆器店提供

田谷漆器店提供

 ボールペンには、米国の国鳥ハクトウワシと日本を象徴する鳳凰が飛ぶ姿が蒔絵であしらわれている。米大統領に贈った反響は大きく、10日に田谷漆器店がホームページで同じ商品の受注を始めたところ、注文が相次いだという。